福砂屋のカステラを・・・
子供の頃、おやつによくカステラを食べた。
よく冷やしたカステラに、冷たい牛乳を添えてつまんだものだ。 「カステラといえば福砂屋だ」と聞いて育ったものだが、成長するにつれ、カステラを口にすることは次第に少なくなっていった。
吉田健一の『舌鼓ところどころ』を読んでいた時のことだと記憶しているが、カステラにまつわる思わず「ウソォ」と口に出た逸話がある。
(more…)『御馳走帖』内田 百けん
記憶
自分の古ひ思い出の中で、どの記憶が一番古いかと云う事を、きめるのは困難である。 幼少時代の自分に関係した事柄は、自分で覚えてゐると思ふ事が、実は後になって、母や乳母などの口から語られた事の聞き覚えであつたりする。
外部の干渉
きらひではないけれど、飲みたいと思つてゐない時に、先方の思ひつきで飲まされるのは迷惑である。 後の用事とか予定とか、さう云う事は第二としても、自分のおなかの中の順序に、外部から干渉されるのが、いやなのである。
佳肴
午後ずつと仕事をしてゐても、私は間食は決してしない。 ただひたすらに、夕食を楽しみにしてゐる。 一日に一ペンしかお膳の前に坐らないのだから、毎日山海の珍具佳肴を要求する。 又必ず五時に始まらないと騒ぎ立てる。 その時刻に人が来ると情けない気がする。
酒
永年酒を飲んでゐる人は何人でもさうであらうと思ふが、いつの間にか自分の口に合つた酒がきまつて、外の酒ではいけないと云う事になる。
こくがあると云はれる様な酒は常用に適しない。 反対にこくがなくてさらりとした味に、清い香気と色の吟味が酒飲みには一番大切なのであらうと思はれる。
(more…)Lじゃろ
新学期にむけて、小学生組(長男長女)の体操服を新調することにした。 校指定の店がいくつかあり、そこで校章入りの体操服を購入することができる。
今回向かったのは、この地に店を構えて何十年という駄菓子屋件生活雑貨用品店で、八十代のおばあさんがひとりで切り盛りしている。 店の戸をガラリとあけて、「こんちは、体操服ください」と声をかければ、奥からおばあさんがでてくる。
長男のものは先日家内が別の店で購入してきたので、今回は長女のものを買う。 家内にMサイズを買ってくるよう言いつけられている。
「Mをください」
おばあさんに伝えると、隣にいる長女を足先から頭のてっぺんまで見回してから「この子ならLでよかじゃろ」という。 「いやでも、これまでSサイズを着ていたので、次はMを買ってくるように言われてるんです」と返事をしたら、それでも「Lじゃろ・・・」とおばあさんは言う。 「ですかねえ・・・」
(more…)石の・・・
次男を保育園に迎えに行くと、部屋の前でリュックを背負い、仁王立ちして待たれていた。 おや、右足に包帯をグルグル巻いている。 今回は何をしでかしたのか。 ワケを聞けば「おにぎりが落ちてきた」という。 おにぎりを足に落としてケガを? どういうこと?
首をかしげているところへ先生がやってきて、事情を説明してくれた。
磯遊びに出かけた際、皆で「おにぎりに似た石」を探すことになった。 そこで次男は頑張っておにぎり型の石を探しだしたが、ケンカ友達であるT郎君が見つけた石のほうがよりおにぎりに似ていて、しかも大きかったのだとか(この二人、事あるごとに張り合う)。 そこで火がついた次男はせっかく見つけたおにぎり石を投げ出し、再び石探しに出かけたらしい。
そして苦労の末、大きく、おにぎりの形をした石を見つけた。
(more…)八月・・・
慌しく過ぎたこの夏だった。
八月も残すところあと二日、寂しい・・・。
とはいっても、今年はなんだか梅雨明けしてからが梅雨っぽかったような印象があり、妙に蒸し暑かったこともあって、なんちゅうかこうイメージしている夏っぽくなかったというか、あまりピンとこない日々が続いた。
八月のほとんどを関東ですごしたところで以下メモとして。
美登里
もとは横浜の老舗料亭だったのが、とある理由で銀座に越してきた、という店。 次々と盆に出される突き出しはどれも酒の旨さを十二分に引き立てる。
店主力石氏にお願いすると、様々な飲み口の酒を供してくれる。 澄んだトマトジュース、骨抜きをしたハモの薄作りという謎多き品が、今でも頭を悩ませている。
(more…)無職
無職である。
オオゴマダラのサナギのように、全身を黄金色に輝かせ、高級アクセサリーをジャンジャラ身につけているが、無職である。 友人の飲み友達の話だ。
少し前まで、ジムでインストラクターとして働いていたというが、その割には筋肉らしいものが見当たらない超細身の女性。 やたらと食べ物や酒に詳しいが、自炊は一切しない。 その知識は、飲みに行く先々で得てきたものらしい。
夕食は毎晩銀座で食べる(呑む)。
(more…)予期せぬキャンプ
とある理由でキャンプへ同行することになった。
親子水入らずで過ごすはずだった休日をこのような形でフイにするのはいささか気が引けるが、友人たっての頼みだから断れなかった。
メンバーは10人。 キャンプ場に着いたら、まずはカレー作りからということらしい。その手際を眺めていると、恐ろしいほど危なっかしい庖丁さばきで野菜を切っている人がいる。 見ていてこちらが何度もヒヤリとするほどで思わず「大丈夫?」と声をかけた。
すでに調理に飽きてきた人がチラホラ見えてじき、ビールを飲んでいるのかカレーを作っているのかわからないという仕込みになっていった。 たぶん、完成までにはだいぶ時間が必要だろう。
氷の詰まったクーラーボックスの中からコロナビールを引き抜いて、キャンプ場周辺を散策した。 海を見渡せる高台で、景色を撮ったり寝転んだり。 しばらくしてキャンプ場へ戻ってみると、カレーは煮込みの段階に入っていた。
「なんか水っぽいんです」と鍋の前に立つ女性。
鍋をのぞくと色からして超薄味のサラッサラカレーである。 何故か肉の姿がほとんどない。 味見してみると・・・食えたもんじゃない。 薪を倍増してガンガン焚いて半量以下に煮つめるか、ルーを買いに走るよう助言をした。
キャンプ場では多くの人々が夏を楽しんでいた。 ほほえましい家族の光景が目に入ったので、その人たちの近くに腰をおろして今回唯一つ持参してきたものであるタイガーの魔法瓶を取り出した。 中にはよく冷やしたお気に入りの日本酒を入れてある。 杉の猪口でチビチビやりはじめた。
父、母、娘二人の四人家族だ。
(more…)次男ところどころ
ふるさと
次女の歌う「うーさーぎーおーいし、かーのーやーまー」を聞いた次男はとっさに家内のところへ駆け寄り、「かのやまって蚊のいっぱいおる山のことやろ、どこにあると?」という我々が言えばベタベタなことを真剣な顔で質問していた。 こういう年頃。 ちなみに長崎に伝わる童謡「でんでらりゅう」の歌詞「でんでらりゅーがでてくるばってん」は、どこかから龍が出てくる事だと勿論思い込んでいる。
(more…)雲
ボラヘソ
なじみの料理屋でハラカワのことを絶賛していたら大将の目が怪しく光った。 うらやましがられたのかと思いきや「へーえ」という精気のない相槌をされ、「まだまだだな、オイよ」と言わんばかりに見下された。
だって喰ったことなかとやろうもん。 その態度、どがんなっとっと!と突っ込んだら、ガサゴソとカウンターの下をまさぐって袋を取り出した。
中から出てきたものは、見覚えのある物体なのだが、なぜこんな姿になっているのかが皆目見当がつかない。 カラスミの一部なのだ。
カラスミの下の部分、ちょうどボラの腹と卵巣が接する部分だけが袋一杯詰められている。 カラスミは、あの美しい形も味のうちである(参考:?)。 それをなんで切り落としてしまったのだろうこの人は。 飲みすぎてついにおかしくなったのではなかろうか?
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