『御馳走帖』内田 百けん
記憶
自分の古ひ思い出の中で、どの記憶が一番古いかと云う事を、きめるのは困難である。 幼少時代の自分に関係した事柄は、自分で覚えてゐると思ふ事が、実は後になって、母や乳母などの口から語られた事の聞き覚えであつたりする。
外部の干渉
きらひではないけれど、飲みたいと思つてゐない時に、先方の思ひつきで飲まされるのは迷惑である。 後の用事とか予定とか、さう云う事は第二としても、自分のおなかの中の順序に、外部から干渉されるのが、いやなのである。
佳肴
午後ずつと仕事をしてゐても、私は間食は決してしない。 ただひたすらに、夕食を楽しみにしてゐる。 一日に一ペンしかお膳の前に坐らないのだから、毎日山海の珍具佳肴を要求する。 又必ず五時に始まらないと騒ぎ立てる。 その時刻に人が来ると情けない気がする。
酒
永年酒を飲んでゐる人は何人でもさうであらうと思ふが、いつの間にか自分の口に合つた酒がきまつて、外の酒ではいけないと云う事になる。
こくがあると云はれる様な酒は常用に適しない。 反対にこくがなくてさらりとした味に、清い香気と色の吟味が酒飲みには一番大切なのであらうと思はれる。
餓鬼道肴蔬目録
※「昭和十九年ノ夏初メ段段食ベルモノガ無クナツタノデセメテ記憶ノ中カラウマイ物食ベタイ物ノ名前ダケデモ探シ出シテ見ヨウト思ヒツイテコノ目録ヲ作ツタ」とある。
- さはら刺身 生姜醤油
- たひ刺身
- かぢき刺身
- まぐろ 霜降りとろノぶつ切り
- ふな刺身 辛子味噌
- べらたノ辛子味噌
- こちノ洗ひ
- こひノ洗ひ
- あはび水貝
- 小鯛焼物
- 塩ぶり
- まながつを味噌漬
- あぢ一塩
- 小はぜ佃煮
- くさや
- さらしくぢら
- いひだこ
- べか
- 白魚ゆがし
- 蟹ノ卵ノ酢の物
- いかノちち
- いなノうす
- 寒雀だんご
- 鴨だんご
- オクスタン塩漬
- 牛肉網焼
- ポークカツレツ
- ベーコン
- ばん小鴨等ノ洋風料理
- にがうるか
- このわた
- カビヤ
- ちさ酢味噌
- 孫芋 柚子
- くわゐ
- 竹の子ノバタイタメ
- 松茸
- うど
- 防風
- 馬鈴薯ノマツシユノコロツケ
- ふきノ薹
- 土筆
- すぎな
- ふこノ芽ノいり葉
- 油揚げノ焼キタテ
- 揚げ玉入りノ味噌汁
- 青紫蘇ノキヤベツ巻ノ糠味噌漬
- 西瓜ノ子ノ奈良漬
- 西条柿
- 水蜜桃
- 二十世紀梨
- 大崎葡萄
- ゆすら
- なつめ
- 橄欖ノ実
- 胡桃
- 椎ノ実
- 南京豆
- 揚げ餅
- 三門ノよもぎ団子
- かのこ餅
- 鶴屋ノ羊羹
- 大手饅頭
- 広栄堂ノ串刺吉備団子
- 日米堂ノヌガー
- パイノ皮
- シユークリーム
- 上方風ミルクセーキ
- やぶ蕎麦ノもり
- すうどん
- 雀鮨
- 山北駅ノ鮎ノ押鮨
- 富山ノますノ押鮨
- 岡山ノお祭鮨
- こちめし
- 汽車弁当
- 駅売リノ鯛めし
- 押麦デナイ本当ノ麦飯
以上列記シタルハ
- イツモ食ベテヰタ物、モリ蕎麦ベーコンノ如キ
- 人ヨリ饋ラレテソノ味忘ジ難キ物、鶴屋ノ羊羹 ますノ早鮨ノ如キ
- 昔ノ味ヲ思ヒ出ヅル物、べたらノ辛子味噌三門団子ノ如キ
ソノ後デ思ヒ出シタ追加
- にんじん葉ノおひたし
- りんご
- ペリングソースヲカケタかつぶし
- かまぼこノ板ヲ掻イテ取ツタ身ノ生姜醤油
- 白雪?
- 花胡瓜