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何気に腕をさすると掌に当たるものがある。 目を凝らしてみると、小さなイボがあった。
珍しさから家内に見せたら「そんなの皮膚科に行けばポロよポロ」という。 早速病院へ行くと「ああイボですね、他の場所にうつったりもするので取っちゃいましょう」と先生。 イボに効く薬は無いので焼いて取らねばならないのだという。 「え、焼くてどうやって!?」
「焼く」という言葉にかなり反応したが、何もイボを火あぶりにするのではなく、液体窒素を使うらしい。 液体窒素といえばアレだ。
その液体窒素をイボにくっつけて、ヤケド状態にして息の根を止めるそうだ。 「じゃ、液体窒素持ってきて」と先生が言うと、こなれた様子で紙コップを手に棚の下にあるメタリックな球体へ歩み寄る看護師。
そして紙コップを床に置き、球体を持ち上げて中に液体窒素を注ぐ。 瞬間白煙が立つ。
もうもうと白煙のあがる紙コップのフチを親指と人差し指ではさみ持ち、何気に椅子に座るオイの真横を通り過ぎていく。 もしも看護師がくしゃみでもして中身がオイにふりかかってきたらどうなるんだろうか、という恐ろしい妄想をする。
先生は綿棒の先を液体窒素に浸し、イボにチョンチョンとくっつける。 初めは冷たく、次に鈍痛がして、次第にヒリヒリしてくる。 これで治療は終わり。 そのうち皮がむけるが、それにくっついてイボもとれてしまうらしい。 いや勉強になった。
ぶら下げては
朝ゴミ捨てに向かっていると、近所のおじいさんが両手にゴミ袋をさげてヨロヨロ歩いてきた。 手を貸すと「すまんね」とおじいさんはつぶやいて、ゴミのひとつをオイに渡した。
ボーリング玉でも入っていそうな、肩が抜けるほど重たいゴミだったので、一体何が入っているのか尋ねようとしたところ、おじいさんはもうひとつのゴミ袋を道端に残して去って行った。
仕方がないので置かれたゴミ袋を拾うと、これがまた漬物石がゴロゴロ入っていそうなほど重たかった。 3つのゴミ袋をさげ、釣り合っていない天秤みたいになりながら、ゴミ置き場までようやくたどり着いた。
「朝っぱらから汗だくだよまったく」なんて言いたかったが、近頃はもう、朝夕涼しい。
映画『タンポポ』よりラーメンに関する部分のまとめ

(more…)ある晴れた日、僕は一人の老人にともなわれてふらりと町へ出た。 老人はラーメン暦四十年。 これから僕に、ラーメンの正しい食べ方を伝授してくれるのだという。
僕:「先生、最初は、スープからでしょうか、それとも麺からでしょうか?」
老人:「最初はまず、ラーメンをよく見ます」
僕:「は、はい」
老人:「どんぶりの全容を、ラーメンの湯気を吸い込みながら、じみじみ鑑賞してください。 スープの表面にキラキラと浮かぶ無数の油の玉。 油に濡れて光るシナチク。 早くも黒々と湿り始めた海苔。 浮きつ沈みつしている輪切りのネギたち。 そして何よりも、これらの具の主役でありながら、ひっそりとひかえめにその身を沈めている三枚の焼き豚」
老人:「ではまず箸の先でですね、ラーメンの表面をならすというかなでるというかそういう動作をしてください」
僕:「これはどういう意味でしょうか?」
老人:「ラーメンに対する愛情の表現です」
僕:「ははぁー」
老人:「次に、箸の先を焼き豚のほうに向けてください」
僕:「ははぁーいきなり焼き豚から食べるわけですか?」
老人:「いやいや、この段階では触るだけです。 箸の先で焼き豚をいとおしむようにつつき、おもむろにつまみあげ、どんぶり右上方の位置に沈ませ加減に安置するのです。 そして、これが大切なところですが、この際心の中で詫びるようにつぶやいてほしいのです。 『あとでね』と」
とうさん
【カラス】空中戦【トンビ】

よく晴れた日、草っぱらに寝転がって京の町屋の写真集を眺めていた時の話。 少し目が疲れたので空を仰ぐと、突如視界にカラスが入ってきた。 続いてトンビがやってきた。 どうやら両者はケンカをしているらしい。
トンビのほうが体が大きく優勢な様子。 カラスは下から突き上げられそうになり、思わず体を反らす。 すると今度は背後に回られ上から押し付けられそうになる。 防戦一方の展開だ。
(more…)大食い
三世帯で集まりしゃぶしゃぶパーティーを開いた。 それぞれ子持ちなので、かなりの頭数になり、用意した牛肉の量も、半端ではない。
T氏一家は奥さんが来ていない。 なんでも夫婦げんかの真っ最中らしい。 酒が進むにつれケンカの発端に話は向かった。
(more…)二つのゴタゴタ
小学校での話
保護者会にはいつも家内が参加しているのだが、急用ができたので、オイが行くことになった。 お母様方の中に混じり、あちらこちらから飛び交う世間話に耳を傾けていた。
すると「ねえ、昨日の宿題、○○くん、ちゃんと解けてた? うちの子はこんなのできないって頭かかえてさ、落ち込んじゃったのよ」という声。
「ああそういえば、難しいって言ってた!」と別のお母様。
すると方々から「ウチも!」「あれは解けない!」という声があがり、その話で持ちきりになった。 話をまとめると、宿題に、まだ習っていない二けたの足し算がでて、解けなくて困った、という事らしい。
「あの宿題は難しすぎます!」とお母様方から責められ続け、担任は冷や汗かきながら「なんといいますか、チャレンジする、という意味で出してみました」と弁明。 それにお母様方は猛反発。 「チャレンジにも程があるわ!もっとちゃんと習っている所を宿題にしてください!」
新学期早々、強大な相手を敵に回してしまった担任氏に心から同情する。
(more…)怒涛の質問
自作PC
あぐり
漁港をうろついていたら、おじいさんが網の山に埋もれてガサゴソしていた。 近寄ってみると、漁に使う網を補修しているところだった。 話しかけると気のいい方で詳しく説明をしてくれた。
「こいは網仕事言うてね、定期的にせんば漁師はつまらんと。 だってさ、網の破れとったら網ば投げたところでしょうがなかたい。 魚の全部逃げてしまうもんね。 だけんが、こいば使うて、網のほつれとる所ば修繕するとたい」
目の前に差し出されたのは、網を補修するための、いわば針だった。
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