なじみの酒屋
和酒道楽が高じて飲んだ酒を日本酒、焼酎と逐一記録し続けている。
それぞれに好みな味の向きはあるが、なるべく飲んだ事のない銘柄に手を伸ばすよう心がけている。
酒の入手先はネットを徘徊する事もありはするものの、もっぱら利用するのは、やはり近場の酒店である。
何年も通っているからなじみになった店も、チラホラ。
毎回まとめ買いするから、はじめのうちは居酒屋か何かを経営している人物と思われる事がままあり「領収書の宛名はどうします?」とか「店まで配達しましょうか?」なんて言われたりもする。
その都度「自分で飲む用です」と引き上げるが、来店頻度が高いから、そのうち大酒飲みだとバレる事に。
とある商店街にある行きつけの酒屋は、主人とそのお母様がいつも店にいる。 お母様であるお婆さんは、椅子にチョンと座ったままウトウトしていたり、本を読んでいるだけの、 いわば店のマスコット的存在だ。
ところがこないだ行った時は、たまたま大口の客がおり、全国各地に酒を送るとかで、一升瓶を選んではアレコレ説明する店主に、お婆さんがなんと!伝票を書いたり「会員登録しませんか?」なんて声掛けしたりとせわしく働いていたのだった。
はじめて見る「動いているお婆さん」に心打たれながら、コチラは大口が済んでからゆっくりと買い物しようと銘柄をためつ、すがめつしていたところ、背後からドン!と押されたので何かと振り返ればお婆さんがそこを通り抜けた。
会員登録のチラシを取りにいったのだ。 ちょうどその通路に立っていたので邪魔だったのだろう、パワフル。
10分程して大口の注文はさばけ、いつものように静かな店内となった。 店主は酒でも飲んだかのように顔を赤らめ、先の大商売の健闘を自ら称えた。
「いやぁー盆と正月状態やったねしかし、あー汗かいた! すんませんねお待たせしちゃって」
そこでいざ我が買い物となったところ、先の今なので店主は妙に意気高揚しており、酒粕を探せば「あー、それはもう、持ってっちゃってください!」なんて太っ腹モードに。
つまり大口の恩恵受けちゃった、という話。