八月・・・
慌しく過ぎたこの夏だった。
八月も残すところあと二日、寂しい・・・。
とはいっても、今年はなんだか梅雨明けしてからが梅雨っぽかったような印象があり、妙に蒸し暑かったこともあって、なんちゅうかこうイメージしている夏っぽくなかったというか、あまりピンとこない日々が続いた。
八月のほとんどを関東ですごしたところで以下メモとして。
美登里
もとは横浜の老舗料亭だったのが、とある理由で銀座に越してきた、という店。 次々と盆に出される突き出しはどれも酒の旨さを十二分に引き立てる。
店主力石氏にお願いすると、様々な飲み口の酒を供してくれる。 澄んだトマトジュース、骨抜きをしたハモの薄作りという謎多き品が、今でも頭を悩ませている。
(more…)無職
無職である。
オオゴマダラのサナギのように、全身を黄金色に輝かせ、高級アクセサリーをジャンジャラ身につけているが、無職である。 友人の飲み友達の話だ。
少し前まで、ジムでインストラクターとして働いていたというが、その割には筋肉らしいものが見当たらない超細身の女性。 やたらと食べ物や酒に詳しいが、自炊は一切しない。 その知識は、飲みに行く先々で得てきたものらしい。
夕食は毎晩銀座で食べる(呑む)。
(more…)予期せぬキャンプ
とある理由でキャンプへ同行することになった。
親子水入らずで過ごすはずだった休日をこのような形でフイにするのはいささか気が引けるが、友人たっての頼みだから断れなかった。
メンバーは10人。 キャンプ場に着いたら、まずはカレー作りからということらしい。その手際を眺めていると、恐ろしいほど危なっかしい庖丁さばきで野菜を切っている人がいる。 見ていてこちらが何度もヒヤリとするほどで思わず「大丈夫?」と声をかけた。
すでに調理に飽きてきた人がチラホラ見えてじき、ビールを飲んでいるのかカレーを作っているのかわからないという仕込みになっていった。 たぶん、完成までにはだいぶ時間が必要だろう。
氷の詰まったクーラーボックスの中からコロナビールを引き抜いて、キャンプ場周辺を散策した。 海を見渡せる高台で、景色を撮ったり寝転んだり。 しばらくしてキャンプ場へ戻ってみると、カレーは煮込みの段階に入っていた。
「なんか水っぽいんです」と鍋の前に立つ女性。
鍋をのぞくと色からして超薄味のサラッサラカレーである。 何故か肉の姿がほとんどない。 味見してみると・・・食えたもんじゃない。 薪を倍増してガンガン焚いて半量以下に煮つめるか、ルーを買いに走るよう助言をした。
キャンプ場では多くの人々が夏を楽しんでいた。 ほほえましい家族の光景が目に入ったので、その人たちの近くに腰をおろして今回唯一つ持参してきたものであるタイガーの魔法瓶を取り出した。 中にはよく冷やしたお気に入りの日本酒を入れてある。 杉の猪口でチビチビやりはじめた。
父、母、娘二人の四人家族だ。
(more…)雲
重。
いつも主人がお世話になっています。 オイの妻、ワイ(仮称)でございます。
通っているヨガ教室に、あたらしい方が入ってきました。 五十代の女性です。 気さくで朗らかな雰囲気を持つ人で周囲にすぐ溶け込み、私も仲良くなりました。 少しおっちょこちょいなところがかわいらしいです。
ある日「お茶しない?」と誘われたので「是非!」と、少し遅くなることを主人に連絡したのですが、彼女の「お茶しない?」という意味は、自動販売機でお茶を買ってその場ですこし飲みませんかという意味でした。 しばらく二人で立ち話をしました。
先日DVDが見たいというので、教室へ向かうついでに彼女の家まで持っていってあげました。 まだ時間があるからと家の中に通されて、紅茶を頂きながらいつものように楽しく会話をしていました。
「そろそろ出なきゃ間に合わないよ」という頃になり席を立とうとしたところ「ああそういえば」と彼女は大きな冷蔵庫へ向かいました。 そして野菜室を開け、次々に野菜を取り出しはじめたのでした。
なんでもご主人の趣味が家庭菜園だそうで、色んな野菜や果物を作っているのだといいます。 鉢の張ったカボチャ、小ぶりだけどいかにも抜きたてといわんばかりに土がついた瑞々しいタマネギ、まっすぐ一本筋の通ったニンジン、青々としたキュウリ・・・ニンニクは端整な姿からして上質です。
(more…)車引き上げ隊
早朝、ベランダでストレッチをしていると、近くでブォンブォンとエンジンを吹かす音がした。 やたらと吹かすものだから何事かと音のするほうへ行ってみると、坂道でワゴン車が立往生していた。
タイヤが空回りして坂を上れずにいるらしい。 近寄ると、運転手は近所の青年だった。 無理をしながらここまで上ってきたのだろう、左の後輪が裂けていてホイールも派手にひん曲がっている。 あたりに漂う焼け焦げたゴムの臭いに思わず顔をしかめる。
このままでは付近の迷惑になるので、とりあえず移動させねばならない。 ゆっくりアクセルをふむよう指示しながら、車を後ろから押した。 すると簡単に坂を上りはじめた。
(more…)カメノテ
「あそこのお婆さんは近頃ボケてきた」
そんな話を昨年あたりから耳にしていた。 先日お婆さんと道で会い、「オイくん、煮干いるね?」と聞かれたので「喜んで!」と答えたら、家に入ったっきり出てこなくなった。
心配になり家の中を覗いてみると、お婆さんは何事もなかったかのように座布団に腰をおろしお茶をススッていた。 煮干の件は、忘れているのだろう。
この人には随分世話になった。 季節の野菜をもらったり、栽培法を教えてもらったり、田舎料理を伝授してもらったり、子供たちをかわいがってくれたり・・・。
近々デイサービスセンターに入所することが決まっているそうで、そうなると、会うことも難しくなりそうだ。
(more…)梅エキス
今年は40キロの梅を仕込んだ。 家族総出でヘタをとり、塩漬けまでを済ませた。 子供たちにも手伝ってもらうが、もうなれたもので、いちいち指示を出さなくてもテキパキと作業をこなしてゆく。
実は昨年末から、この時期を楽しみにしていた。 なぜならば「梅エキス」を作ってみたかったからである。
(more…)植物の力
昨年から野菜作りに励んでいる。
家族で力を合わせて庭に小さな畑を作り、エダマメやゴーヤ、トマトにナスを、近所の熟練者に指導してもらいながら育てている。 楽しい。
唐突だが、植物には目があるらしい。
南アメリカ原産のスベリヒユという草は、赤と緑を見分ける。 この植物、茎は地をはって伸び、先のほうで立ち上がるが、赤と緑のブロックをそれぞれ近くに置いたところ、赤のブロックはおかまいなしでその上を覆うように這う。
ところが、緑のブロックは避けて這う。 どうしてこのようなことができるかというと、植物は光の波長を感知する色素を持っているからだ。 どうしてこのようなメカニズムを備えたのかというと、葉が重なったりして生育に影響がでないよう、緑を避け合っているのだとか。 建物の壁にからまるツタもよく見ればびっしりと茂っているようでいて、葉は重なり合うことなく、ちょうど良い間隔を保っている。
(more…)妙な話
家に遊びに来ては何冊か本を借りていき、その後返そうとしない人が家内の友人にいる。 別に悪気があってそうしているのではなく、天然な人なので、借りていることがどこかに飛んでいってしまうのだろう。
催促をすると「あっそうだった、ゴメン、今度持ってくるから」と必ず言うが、そのためしがない。 第一そこまで飛んでしまうのならば、いくら本を読んだところで同じだろうに、といつも本人に言いきかせている。
どこか憎めない人物で、かなり話が面白い。 酒が入ると輪をかけて面白くなるから、本をいくらあげたって惜しくはない。 どういう人だと説明すれば一番わかってもらえるかを考えてみたところ、親しみを込めつつ「長嶋監督と中村玉緒を足して二で割ったような人物」と表したい。
ある日、家内にその人から電話があった。 「フンフンそれで・・・エッーまぢで、いや送るっていわれても・・・とにかくそこから逃げて!」という、只事ならぬ会話のやりとりがもれてきた。
どうしたのかをたずねたら、とにかく話してみてと家内が言うものだから、しかたなくかわってみたところ、恐るべき光景を語りだした。
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