『舌鼓ところどころ』吉田 健一
卓袱
御鰭と呼ばれるのは、客一人に就て鯛を一尾使った証拠に、椀毎に鯛の鰭を二つずつ付けるからだそうで、客が先ずこの鰭を取り除けて宴会が始る。
卓袱料理はもともとが一種の家庭料理で、今日でも長崎で客に家で御馳走する時はこの方式に従うことが多いそうであり、~中略~
銘々が小皿に料理を取り分けるのに、箸は返さないことになっていて、小皿が一人に就て二つしかないのは、小皿に取ったものは全部食べてしまえということになる。 だから、酒を浴びるように飲んでも、二日酔いはしない訳である。~中略~
卓袱料理を考えた人間はやはり酒飲みだったのに違いない。
角煮
( 続きを読む → )脂っこいのに、それが滋味に感じられるだけで、一つ食べることがもう一つ食べる気持ちを誘う。 どちらかと言えば甘い煮方なのが、この場合も酒を辛くするのに丁度いい程度で、本当を言えば、これを皿に盛ったのと酒があれば、それだけで充分な御馳走である。 これを十一食べた先輩がいるという話も聞いたが、無理もないことだと思う。 消化はいいのに決まっているし、要するに、幾らでも食べられて、翌日、又食べられるのがこの豚の角煮である。