『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三
十三さんの本は何度読んでも凄い。 我もはやいっぱしのコレクター。
トマト
( 続きを読む → )わたくしが子供の時分食べたトマトは、そもそも、今のトマトみたいに染めたようなくれない色ではなかったよ。
まだ黄色のところや、緑のろこなんかある時分に畑からもいでくるだろ。 そいつを井戸水で冷やしたり、あるいは、バケツに水道の水を出しっぱなしにして、そこへプカプカ浮かべて冷やすのだ。 そういうやつは皮なんか厚くって、おしりのヘタのところからは決まって放射線状に罅なんかはいっていたものだ。
そいつを、ああ考えるだけでもうまいではないか。 夏木立の、体が染まるような緑色の照り映えの中で、丸ごと齧るのだ。
しかるに何ぞや。 東京の食べるトマトなんて、あれは一体なんだろう。 色ばかり食紅みたいで味も香りもありはしない。 しかもこれを冷蔵庫で冷やして、冷房の中で食べる。 第一トマトに対して失礼ではないか。
そのように思えてならないのです。






