バーでとりつかれる
あれー、たしかこの辺のはずなんだけどな。
お気に入りの酒屋に久しぶりいってみるが見つからない。 その酒屋は、長期熟成酒に懲りまくり、酒屋内に小さなバーを開いたという面白いお店である。 久しぶりに一杯飲(や)ろうかと考えていたのに、そのお店がない。
おそらくその酒屋があるであろう付近をウロウロしてみるが、やはり見つからない。 そのかわりに、その酒屋があったハズであろう場所に、バーができている。 もしかすると本格的にバーに改装したのかもしれん。 とりあず覗いてみるか。
大体外観からして怪しいとは思っていたが、その酒屋とはまったく関係のないbarだった。 「あのさ、ここって酒屋でなかったかい?」スタッフに聞いてみると、やはりこの場所は、元酒屋であり、その酒屋はどこかに移転して、その跡地でこのバーをやっているのだとのこと。 しかも酒屋とは、これっぽっちも関係がないのだとか・・・。
でも入店したものはしゃーない。 ズブロッカ飲んで帰るか。 からすみの盛り合わせもちょうだいよ。
そのからすみが、なかなか上等だったので、つい2杯3杯と飲み続けてしまった。 居たくもないお店に長居してしまった。 帰ろうか。 と、考え始めたころ、やはり隣の男が話しかけてきた。
やはりというのは、オイが入店する前から飲んでいた男で、ずっとオイが飲んでいるところをチラチラ見ていた男だからだ。 その男は、某総書記の息子にそっくりである。 そこがウケて、実はオイも飲みながらその男をマークしていたのだ。
いきなり自転車の話を持ち出す。 購入した電動アシスト付自転車のハンドルがズレて取り付けられていて、そのクレームを自転車屋に言いにいったのだとか。
「は、ハァ・・・」
としか答えようがない。 急に自転車の話をされてもさ、ね。 この後、少しガードの低い返事をしたことを後悔するハメになった。
自転車の話の次は、母親のことについて事細やかに話し始めた。 実はお金持ちの娘だったのだが、結婚した相手(すなわち自分の父親)が悪くて、大変な苦労をしたのだとか、結婚前は美容師さんだったのだとか、いつもバームクーヘンを買ってきてくれるのだとか、最近は太ったのだとか。
「実はワシ、医者に行かなアカンのよ」といきなり方言が変わった。
「ホウ! なんでまた」なんて乗ってあげた。
なんでも、太りすぎにつき血がドロドロで、このままの生活を続けていると、糖尿病間違いなしという太鼓判を医者に押されたのだとか。 そりゃ大変だ。 早く病院に行ってください。
今度は食い物にこだわりがあるという話になり、急にモスバーガーの匠味の話になる。 野菜が少ないだとかで、購入したお店にクレームをつけにいったのだとか、匠味を販売している店舗は限られているのだとか「オマエ車持ってる? 車出す? 今から匠味食いにいかない?」と誘う。 なんだかアブナイぞコイツ。 なにが楽しくて初対面のあなたと連れ添ってモスバーガーを食いに行かなければならないのか。
そろそろ疲れてきたので、電話に出るフリをして、話を切り上げさせてもらう。 「ちょっと呼ばれちゃって。 楽しい話、ありがとう。 ではまたいつか。」 と、まだ話し始めようとする彼をふりきり店をでた。
今宵はイイ酒だったのか悪い酒だったのかよくワカラン夜だった。