あのー
スーパーで買い物を済ませてせっせと袋詰めをしていたら、買い忘れた食材を思い出した。 両手に大袋を提げたまま再び売場に戻った。
「あれ、どうして豚バラブロックを置いていないんだココは」と、肉売り場の前で立ちつくしていたら、「あのー」と背後から声がした。
振り返れば見知らぬ女性が立っている。 歳の頃は三十代前半、背の高い落ち着いた方だ。
「はい?」と返事をしたところ、私の持つ右手の袋を指差しながら彼女は言った。「卵、落ちそうですよ」
卵のパックの端がビニール袋に接触し、スッパリ切れているのだった。 袋にパックが入っている、というよりも、パックが袋にぶら下がっているという状態だった。
このまま買い物を続けていたら、きっと卵は落ちたハズ。 お礼を伝え、破れた袋を抱え持ちながら、今度はハムのコーナーへ向かった。 するとそこには試食を配る店員さんがおり彼女もまた、
「あらら、袋破れちゃったのね、あー卵のパックで。 危なかったですね」
と声をかけてくれたのだった。 「はい、間一髪でした」
再びレジに向かい、買い足した品物の支払いをしていたらレジさんが、
「あら、袋やぶけちゃってますね。 よくあるんですよねー卵のパックで。 新しい袋に入れ直しますね」
手早く詰替えてもらった。 昨今デパートでもこんなキメ細やかな接客には出会わないなあとカンゲキしながら店を出た。