ブログ覚えたてのおっさん
彼は自称チョイワル親父である。
彼は自称食通である。
彼は自称本物のわかる男である。
彼は萩原健二をこよなく愛す男である。
そして彼は、味オンチである。
彼(以下ショーケン)が最近ハマている事、それはブログである。 流行の最先端をゆくブログなのである。 チョイワルで食通で本物がわかり、萩原健二を愛する男であるからネタは事欠かないわけで、モットーは『ブログを毎日更新すること』らしい。
ブログの面白さを覚えてからというもの、文章を書くことの面白さ、写真を撮ることの妙味を覚え、寝る間を惜しんでブログの更新に励んでいるらしい。
「オイってブログ持ってないの? 何系? アドレス教えて? リンクして? SEP対策にもなるんだよ?」
SEP対策っ!?とにかくワケがわからんので関わりたくない。 とかなんとかいいながら、オイはこのテの面白みのあるヒトが好きで、観察したくなる。 もう少し話を聞いてみようか。
「ブログのテーマは何なんですか?」と聞いてみると
「テーマなどないねん。 自分の書きたいことを書くだけやねんねんか。 そしたらアスセスがあがってきて、もはや40アクセスやー!」とかいう。
すでに名刺にサイトのアドレスが刷り込まれており、渡される。 数日後、オイは飲んだ勢いでそのブログを尋ねてみることにした。
いきなりショーケンの自己紹介というか、生い立ちからはじまる。 子供のころの白黒写真をスキャナで読み取って載せている。 食い物屋レビューというカテゴリがあり、彼お気に入りのラーメン(3回食ったらヤミツキとかいう例のラーメン)を超接写でデカデカと載せている。 「世界の皆さんはじめまして!」というサブタイトルからして、このブログは全世界を視野に入れながら日々更新を続けているらしい。 よくわかったのでページを閉じる。
後日、ショーケン氏とバーで会談したときにブログを見たかどうかを聞かれ、正直に見た、面白かった、と、伝えた。 すると彼は、オイがブログを訪れたことが手に取るようにわかったのだという。 なんでか? それはアクセス解析を覚えたからであるそうだ。 「この前、来てたな」と。
彼はルイ・ヴィトンからVAIOのTYPE Sを取り出した。 電源を入れ、自分のブログをひらく。 そして、アクセス解析のページへむかう。 「ほら、ここで…誰がきたか…わかるんや。 そしてココから……アレ? おかしー…あ、ここや。 ココでどんだけどのページが見られたかわかるんやー」と、いちいち説明される。 彼、パソコンの挙動、共におかしい。
他人のブログの、面白くもなんともないアクセス解析を、延々と見せ続けられながら、夜は更けていくのだった。
オヤジ、ズブロッカもう一杯ちょうだい。
海鮮丼のハズが……
海鮮丼が美味しい店があるという記事を読んで、早くも午前中からその店にいきたくてウズウズしていた。
こんな日に限ってお誘いの声はかかるもので、一緒にメシでも行かないかと誘われる。 断れる場合とそうでない場合があるのが社会であり、今回の場合断ることができなかった。 まあ、しゃあない。 海鮮丼は明日に持ち越すか。
メシをどこに食べにいくのかはまだ決まっていないらしい。 とりあえず、3人はタクシーに乗り込みあっち方面へ向かう。
「メシってどっかなんかイイ店でも見つけたんスか?」
と聞いてみると「うーん、今日は遅いからどっかで軽く済ませて帰ろうや」という。 どっかで軽く済ませる程度の食事をするのに人を誘わんでもよいのではないか。 悩みでも聞いてほしいのか。 yesと言ったオイは失敗だったのではないか、という思いが頭をよぎる。 そもそも「軽く済ませて帰ろうや」の「軽く」とは一体どの程度軽いのか? 生ビールを一杯飲んで、それからうどんでも食って帰るのか、それとも焼酎2、3杯飲るのも「軽く」の範ちゅうに入るのか。
そもそも「一緒にメシでも行かないか」と一口に言っても、それは言う人によって若干意味合いが異なる。 本当にメシだけを食いにいく人もいれば「一杯やろう、てか飲むぞ」メシ=飲むという意味合いの人もいる。 いや少なくともオイの周りはそうだ。 今横にいる人物のいうメシは「酒ぬきで晩御飯を食べに行こう」という意味に違いない。
「うーんどの辺がいいかなーどっかいい店しらない?」彼はいいだしっぺにも関わらずオイにフル。 「実は旨い海鮮丼を食べさせてくれる店があるんですよ」と強引に都合のよい展開にもっていこうと考えたが、ここからは遠い。 「うーん、その辺でいいんじゃないですか?」と答えるのが精一杯である。
「んじゃーそこに入るか」と指差す方向には、何の変哲もない一軒のソバ屋があった。 店から醸し出されるオーラが「ウチはマズいですよ」と訴えかけてくる。 でもオイに選択の余地はないていうかもはやどうでもいい。 早く帰りたい。
早く店に入ればいいものの、店の前に並べられたサンプルを見ながらどれを食べようか悩んでいる。 「どれを選んだっていっしょだよ、まあ早く入ろうや」とココまで出たのを飲み込む。 ようやく店内に入る。 ダルそうなオバチャンに奥へと案内される。
「さぁー何を食べようかな、鍋焼きうどんかなそれとも天ソバかな…」と言いだしっぺ氏は大いに悩む。 オイは……しれーっと生ビールを注文する。 「あーオイくん、ビール飲むの、じゃ、俺らも一杯注文しようか。 それで明日も早いしソバでも食って帰ろうや」という。
「ビール飲むならばつまみがいるよね。 オイくん、何か注文しないの?」というので「つまみも何も、ビール一杯飲んでそば食って帰るんでしょう。 ビール一杯飲むのにツマミは要りません、一気です一気」とココまで出たが「じゃ、枝豆でも頼みますか」と収める。
「オイくんが枝豆ならば私は冷奴。 で、あなたは?」ともう一人に注文を促す。 彼はモツ煮込みを注文した。
しばらくして3杯の生ビールが運ばれてきた。 続いてボロボロの湿ったザルに入った枝豆が届いた。 マズそうである。 「ささ、枝豆でも食べましょうよ」とオイが言うと「それはオイくんが注文したのでしょう。 オイくんが食いなさい。 冷奴はやらんよ」とかいいだしっぺ氏は言う。 それを聞いてあきれる。 枝豆、冷奴、モツ煮込みを皆でつついて生をグッと飲み干すのかと思えば、注文したものは各自で処理しろ、ということらしい。 こんな人物と食事をしたことは今まで一度もない。 なんてヤツだ、アッタマきた。 ビール一杯飲むのに枝豆が一盛りも要るか。 ビール一杯飲むのにモツ煮込みが一皿要るか。
今日ほど枝豆がマズイと思ったことはない。 こんなに早く枝豆を食べたことはない。 早くソバ食って帰ろうと、鴨南そばを注文し、ビールを一気飲みし、枝豆を一生懸命口に運んだ。
モツ煮込み氏はひとりでチョボチョボとそれをつつきながらおそらく発泡酒であろう生ビールをちびりちびりとやってる。 いいだしっぺ氏のことは知らない。 この場は全部オイのおごりでいいから一刻も早く店をでて家に帰りたいなという思いで鴨の細切れの浮かんだノビノビのソバを一気にすすりこんだ。 そして残る二人がソバを食べきるのを待ち「さあ、帰りましょうか」というと食後の一服をしたいといいだしっぺ氏はいう。 どこまで身勝手なヤツなんだ。 モツ氏とオイは彼が一服し終えるまで待つ。
早く吸い終ればいいのにやれ仮面ライダーを見て育った子は攻撃的になるだの、ウルトラマンを見て育った子はそうでなくなるだの面白くもない話を酒を飲んでもいないのにダラダラと語りはじめ、城が好きだとか、戦闘機が好きだとかどうとかこうとか言ってる途中で、モツ氏がヤケに「戦闘機」という言葉に反応したのがその眉毛のつりあがり具合でわかった。
戦闘機というキーワードに異常な反応をみせたモツ氏は「わたしはゼロ戦が好きなのです」とボソリと、まるで相手の知識の深さを測るかのようにつぶやいた。 それを聞いたいいだしっぺは「ゼロ戦ならどこそこに展示してあるよ」と答えた。 「うほっ、お詳しいですね。 もしかして結構好きなんですか?」とモツ氏がニシャーと笑う。 「好きもなにも、戦闘機のプラモデル作らせたらボクにはかなわないよ。 エアブラシはどこのメーカーのがいいか知ってるかい? 戦艦も好きだよボクは」といいだしっぺ。 会話に花が咲いた瞬間である。 それから数十分にわたり戦闘機についての対話がはじまり、
そうな気がしたので、オイは焦り「じゃボクは帰ります金は払っておきます」と言い席をたとうとすると、いいだしっぺは「ワリカンでいきましょうや」と言う。 あたりまえだがや、ダレがお前のメシ代をおごるか、バーカと思いつつも、にこやかな笑みを浮かべながら彼らをおいてソバ屋を去ったのだったのであった。
ヘミングウェー遺品焼失
バハマにあるヘミングウェーの博物館とゆかりのバー「コンプリート・アングラー」のはいったホテルが全焼し、遺品数百点が全焼したそうだ。
いや実にもったい話。
トマトのおでん
「トマトのおでん」と聞くとすこし驚いてしまうが、実際おでん種として存在するのだという。
その元祖は目白にある関西風おでん屋の「田のじ」らしいが、現在はコンビニのおでんにも見られるそうだ。
この話は東海林さだおさんの「コロッケの丸かじり」にあったもので、それをつい先日読み返し、早速作ってみようと思い立ったわけだ。 作り方といっても簡単。 まずいつものようにおでんを作る。 トマトが食べたくなったら、トマトのヘタをとり、反対側に十字に切れ目を入れて、おでんのツユの中に放り込む。 5分経過したらトマトを引き上げ、小鉢に盛り、トマトが半分隠れるぐらいにツユを入れる。 ただそれだけ。
トマトを何時間もグツグツ煮込むわけではないのだ。 なのでトマトにおでんの味は染み込んでいない。 皮はズルむけている。 見慣れない光景にすこしとまどいながらも、とりあえず箸でトマトを突き崩し、食べてみる。
アウ。
カツオ出汁と醤油で作ったおでんダシと、トマトの酸味、いやそれ自体の味が妙に合う。 なんでか? 聞くところによると、トマトは旨味成分であるグルタミン酸の濃度が非常に高いそうだ。
同じく昆布にもグルタミン酸が豊富に含まれており、カツオ出汁は昆布と鰹節でとったものであるからして、鰹節にはイノシン酸が含まれているわけだし、その両者が相見えると、素晴らしい相乗効果を発揮するとかいう話をラーメン作りの時に学んだような気がする。 とにかく、ウマイ。
東海林さんは全27冊に及ぶ(07/10/22現在)丸かじりシリーズで度々おでんのことを書いている。 「おでん」と題目のついたものをザッと調べてみると以下の通りだった。
鯛ヤキの丸かじり
- おでん屋襲撃:韓国ではなんでもかき混ぜて食べる。 ではおでん屋に…という話。
駅弁の丸かじり
- おでん革命:おでんのツユは和風ダシに醤油と決まっている。 が、このままでいいのかという話。
タケノコの丸かじり
- おでんをいじめる?:おでん食い方とか作り方がいじめるでどうとかいう話。
パンの耳の丸かじり
- 冷やしおでん見参:冷たいおでんの話。
おでんの丸かじり
- 「静岡のおでん」は…:静岡のおでんは串が…という話。
- 難物、おでんの袋もの:ためつ、すがめつ、袋ものを注文した男の観察記ほか。
パイナップルの丸かじり
- 自販機からおでん:秋葉原での話。
コロッケの丸かじり
- 韓国おでんの串は:新宿コリアンタウンで食べたデッカイおでんの串がどうのこうの…という話。
- トマトのおでん:この記事の話。
以上9題
このように東海林さんは再三にわたりおでんを語っておられる。 東海林さんのおでんに対する情熱が伝わってくる。 情熱は伝染する。 だからあなたもひとつトマトのおでんを実行してみるべきである。
※さらにこのあと東海林さんはコンソメスープでトマトを同じように煮てみたら美味しいということを発見し、飲んだあとのシメとして大いに期待できると書いておられる。 オイはまずはじめにごく普通におでんを楽しみ、中盤でトマトのおでんを食べて、あとに残るトマト色に染まったおでんダシに、色んな種を浸してトマト風味をプラスし、再びおでんを楽しむという食べ方が好きだ。
まつぼっくり
まつぼっくり、天狗の鼻、そしてカラスウリ。
これらは全て、息子の通園用リュックからでてきたものだ。 彼いわく、天狗のハナ(緑のヤツ)というのは鼻の頭にくっつけて遊ぶものらしい。 カラスウリのことを『からすのまくら』と呼ぶのは長崎だけであろうか。 これを割って、足に塗りつけると、足が速くなるという特典が得られるそうである。
まつぼっくりに関しては、すでにコレクションと化していて、息子専用宝物箱の中にギッシリと入れられている。 ちゃんとお気に入りのものもある。
サーバー移転
この記事が表示されているということは、すなわち新サーバーだということです。
きばって更新します。
サクマドロップ火垂るの墓バージョン
サクマドロップについては以前も掲載していたのだが、まさかこのようなバージョンがあったなんて…。
アニメ版火垂るの墓は大好きなのだが、見れない。 ある意味トラウマとなっているのだ。 いやでもしかし、見なきゃイカン、正視せねばならんのかもしれん。
サクマドロップを食べようとして、まさかこんなにヘコむとは想像すらできなかった……。
ふぐ料理のお店
知り合いのそのまた知り合いに元プロ野球選手がおり、彼行きつけのふぐ料理屋が美味しいという話なのでひとつオイも行かないかという誘いをうけて、同行した。 ふぐならば旨いに決まっているでしょう。
近くまでタクシーで移動して、そこからしばらく歩くと河豚屋に着く、という話だったのだが、歩いても歩いても辿りつかない。 元プロは道を間違えたのではなかろうか? と考え始めた頃、ようやくフグ屋についた。 こじんまりとしているが、立派な建物である。
一人ではとても入れそうにない。 一見さんお断りとか言われそうだ。 皆一列に並び、店内へ入っていく。 「いらっしゃいませー」と女将さんが出迎えてくれる。 年の頃は70ちょっとで品格がある。 L字型のカウンターに順番に座る。 椅子の背もたれがやけに長くてウケル。
女将さんは奥から順番に名刺を渡しはじめる。 そしてその後、店の歴史を語りはじめる。 「この店は最初屋台から始まり、今年で40年になります。 最初の頃は…」と、以外に長話だった。 皆、一応敬意を示すために「ほー、へぇー」とかうなずきながら上手に話しを聞いた。
「さて、皆さんお飲み物はビールでよろしいでしょうか?」
「はい。 皆ビールでお願いします」 とひとりが代表して答えた次の瞬間、キツネ目の男が「ワシ風邪引いているからお茶でよろしく」という。 フグを、お茶と、食べるのか…・
突然、和服姿の女が入ってきた。 「いらっしゃいませ」というからにはこの店の者なのであろうが、その顔立ちや動作にはなにやらかすかな怒りが見え隠れするような気がする。 女将の隣に立ち、一同に挨拶をする。 若女将なのだ。 女将と若女将はなにやら小声でやりとりをしたあと、サーバーからジョッキへビールを注ぎ始める。
女将は先ほどからジョッキにビールを注いでいるのだが、どうにも泡ばかりである。 半分、いやもしかすると6割は泡?という生ビールを客に差し出す。 ジョッキを持つ手がブルブルと震えているので、コースターの上はビールだらけになる。 どういう反応をすればいいのか一瞬考える。
次の瞬間、若女将が女将の持つジョッキを取り上げて、自らビールを注ぎはじめた。 ファンデーションを厚塗りしているにもかかわらず顔色はどす黒く変色しており、誰がどうみても怒っている。 女将さんはバツが悪そうに別の作業に移る。 若女将の気持ちもわからんでもないが、客の前でそんなにトゲトゲしくされても困るわけで…。
「さあ皆さん、まずはクエの薄作りを召し上がっていただきましょう!」
気をとりなおした女将がクエの大皿を運んでくる。 なにやら足元がおぼつかなくて、見ていてドキドキする。 どうか一刻も早く、カウンターの上に大皿を設置し終えますように、と祈らずにはいられない。 ホッ。 無事に大皿設置完了。 ハラハラさせやがって、飯どころじゃねぇぞまったく。 「しかしウマソウなアラですね、アラの刺身なんてなかなか口に入りませんからね、ハハハ。 えーっとポン酢はどこにあるのかなー…」
丸くていかにも高価そうな大皿に薄切りのクエがズラリと並べられており、中央にネギ、ミョウガ、紫蘇、もみじおろしなどの薬味がこんもりと盛られている。 おもわず生ツバがでるが、とり皿と、ポン酢がない。 しばらくして女将はそれに気づく。 「あー、すいませんでした。 皿とポン酢がありませんねー」
カウンターの下は食器入れになっており、そこから8枚皿を取り出す。 そして一枚ずつ我々の前に皿を出そうとした瞬間、前につんのめって皿を客に投げてしまった。 そしてその皿は突き出しの入った小鉢に衝突し、割れて、飛び散った。 一同、唖然とする。
女将は一瞬焦りを色を見せたが、すぐさまとりなおして、割れた皿を片付けて、皿を一枚一枚配り終えた。 そして、自慢の手作りポン酢をもってきた。 イロイロあったけれど、これでようやくクエが食べられるというわけだ。 みんなはじめは恐る恐る一枚ずつクエを箸でつまんでは口に運び、かみしめ、喜びの声を上げていたのだが、誰かがクエをゴソッと箸ですくい上げ、ポン酢に浸してムシャムシャ食ったのをキッカケに、我もクエをごっそりと、我もクエをごっそりと、という風に奪い合いになった。 一瞬で、クエは無くなってしまった。
次に危なっかしく運ばれてきたのは待望の河豚刺しであり、クエと同じように盛り付けられている。 皆箸を手に大皿の到着を待ち構えており、カウンターに置かれた瞬間、ヌーっと8本の腕が大皿に伸びた。 当たり前だが美味しい。
さて。 ここらで日本酒でも飲みながら河豚つまみたいですな。 女将さん、なにか日本酒ございますか? と尋ねると「あー、お酒ですね、取って置きの焼酎、魔王がありますよ、人気ですよ」と言う。 うーん、魔王はさておきオイらは日本酒を……でもまあいいか。 じゃ魔王をくださいな。 ロックで。
女将は危なっかしくロックグラスを取りだし、魔王を棚から危なげに持ってきて、厨房に氷を頼み、時間をかけて魔王の封をあけて、魔王のロックを作ってくれた。 ロックっていうか、氷はほとんど入っておらず、並々と魔王が注がれている。 うーん、まあいいかグビッ。
皆それぞれ飲みながら、河豚をつまみながら、楽しい宴を満喫していると、女将が現れて「穴子の刺身食べませんか?」と言う。 美味しそうだ、満場一致でお願いすることにした。 と、思ったら、一人穴子の刺身は食えないとかいうヤツがいる。 以前別の店で穴子の刺身を食べてアタッタとかで。 これを聞いた女将は今までにない俊敏な動きでイケスから穴子を救い出して我々に見せる。 「ホレ、活きてる穴子なんですよ。 当たるわけないでっしゃろ」
穴子食えない氏は、仲間からもダメダシをされる。 食えないならだまって食わぬならよいだろうが、オマエが食わなくたって皆が食うに決まってんだろ。 穴子氏はこの件について我らの長老から4時間にわたる説教を受けるハメになった。
この長老というのがまたやっかいな人で、食い物にウルサイし、他のことにもウルサイ。 たらふく食って飲んだ後にだされた味噌汁に使われている鰹節がイケナイということで、わざわざ女将にそう言う。 使っている鰹節を見せやがれ! と段々エスカレートしてくる。 女将もシカトしておけばよいものをこれがまた正直に使っている鰹節を持ってきてしまう。 それを見た長老は、女将を目の前に、右手で鰹節を握り締めながら、どこがイケナイだの、どこそこの鰹節を使うようにしろだの、たまに穴子食えない氏のほうを向いて怒鳴ったり、大変な騒ぎになった。
本当の話だが、女将は我々が食事をしている間に計4回、食器を派手に割った。 若女将の態度から推測すると、これはいつものことなのかもしれない。 できることならばお店には立ってもらいたくないのかもしれない。 もう引退してもらいたいのかもしれない。
でも女将が商売を始めて40年。 はじめはリヤカーを引いた屋台から初めて、頑張って、ビルを建てた。 今では多くの客に贔屓にされて、本当に嬉しい。 今こうして皆さんに会えるのも、一番つらい時期に、○○銀行がお金を貸してくれたからだ。 だから○○銀行のほうに足を向けて寝れない。 ほんと辛かった。 らしい。 5、6回同じことを聞いたので覚えてしまった。
河豚も美味しいが、憎めない女将さんのいるフグ屋だった。
懇親会というか拷問
「上質なイノシシ肉が手に入ったのでとりにこい」という電話があった。
作物を荒らすイノシシがどうのこうの…で、猟師が仕留めたものらしい。 以前にもしし肉をいただいたことがあったが、シシ肉は旨い。 脂がしつこくなく、肉は柔らかく、なんちゃって牡丹鍋を作ると非常によかった。 即、イノシシをもらいに行く。
「ほー。 こんなに沢山もらっていいのでしょうか?」
用意されていた猪肉は一頭分丸ごとなのでは?というほどの量で、うれしさ半分、どうやって食べきれというんだという困惑半分という具合だった。 でも食べきれない分は冷凍すればいいし、そう深く考えることでもない。 くれるものは、もらわなければ損である。 しかし、世の中そうオイシイ話ばかりではない。
「シシ肉をあげる。 でもそのかわりといってはなんなんだけど、運動会の練習手伝ってくんない?」
という交換条件が提示されたのだ。
来週、この田舎町で運動会があるという。 町内の運動会なのだが、町民は皆はりきっており、一年の行事でも特にこの運動会を楽しみにしているらしい。 「山田さん家の嫁さんには負けられんばい」とか「去年の雪辱をリベンジしてノックダウンさせてやるっちゃ」とか「雅治のヤツ、馬場チョップばくらわせてやる」とかいう、なんとも小規模な個人間のいがみ合いというかライバル心がほとばしっているらしい。 とにかく町内の大事な行事なのだ。
町内運動会は来週に控えており、毎晩予行練習を行っているという。 予行練習までやるのだ。 気合が入っているのだ。 その予行練習では、本番さながら、ムカデ競争やら玉入れやらをやるそうで、それに際し道具を出し入れするいわば「道具係」が必須なのだとか。 率直にいうと、その道具係をオイにやれということらしいというのは、話を2割聞いただけでわかった。
簡単な話である。 そのくらい引き受けましょう。 指示されたとおりに、イソイソと道具を出し入れすること2時間、任務は無事終了した。
「いやいやホント助かったよ、オイくん。 さあ、予行練習も終わったし、懇親会だっちゃ」
どちらかというと、皆さんは予行練習の後の飲み会を楽しみにしていたらしく、早くビールを飲みたいがために目は血走り、浮き足立っている。 オイに猪肉をくれた本人は町内のまとめ役らしく、自分の家に皆を案内する。 「家内がビールをギンギンに冷やしているもんでよ、家に来い」
猪肉もらって、道具を少し運んであげたらビールにありつけるなんて幸せ。 汗ダクだしあいにく喉はカラカラだ。 しかし10月だというのになんでこんなに暑いのか? いやそんなことはどうだってよろしい、とにかくギンギンに冷えたビールを何杯か一気飲みしないと話にならない、軽トラの荷台に乗り、シシ肉氏の家へ向かう。
玄関はすでに開放されており、奥さんがビールとともに待ち構えている。 玄関に入るやいなや、キンキンのビールを一本づつ手渡される、ハズだったが…。 あれ? これってヌルイよね??
奥さんが満面の笑みで手渡してくれる500mlの缶ビールは、冷えすぎというぐらい冷えているハズというかそうでなければならない。 皆汗をかいているんだ。 しかし、その缶ビールはヌルヌルもヌルヌルであった。 もうね、受け取った瞬間にぬるいと分かった。 周りを見回すが、皆さん「うわ、このビールぬるいよね」とかそういう声は聞こえてこない。 オイのビールだけがぬるいのか、いや、そういうわけはない。 ビールには、水滴ひとつついていない。 やはり、皆のビールもぬるいに違いないのだ。
並列に並べられた長テーブルには、奥さん手作りの美味しそうなつまみが用意されている。 だのにビールはぬるい。 しかも室内がやけに暑い。 エアコンが入っていない。 マジか。 適当なところに腰をおろし、とりあえずぬるいなりにも早くビールを一口飲みたいという衝動にかられる。 もしかすると以外に冷えているのかもしれないし。 挨拶なんかイーから早く乾杯をしろ、なんて考えてたら、やはり皆同じ意見だった。 「もーよかよか、とりあえず、ビールば飲もーでかープシュッ」
やはりビールはぬるかった。 まったく冷やされていないといっても過言ではない。 あちこちからビールがぬるいという声が上がる。 冷えていないのは残念だが、とりあえず喉が渇いて仕方がないので一気に飲み干す。 ビールを一気飲みして、これほど爽快でなかったことは人生で初めてだ。 諸君、ぬるいビールはビールではない!
この懇親会には、ビール以外の飲み物がない。 焼酎や日本酒なんて無い。 なにか飲みたかったら、ぬるいビールをおかわりするしかないのだ。 発泡スチロールの大箱に入れられているビールはどれもぬるい。 奥さんはもっと冷やそうなんていう気はまるでない。 そもそもぬるいビールを発泡スチロールの箱に入れておいて何になるのだ。 どうせぬるいんだし、その辺に置いておけばよいではないか。 それとも何か、ぬるいビールを発泡スチロールの箱に入れておくといつのまにか段々と冷えてくるとか。 そんな箱があったら絶対買うね一度拝見してみたいものだね。 と段々ハラがたってくる。 もう帰ろう。
「いやー今日はありがとうございました。 それじゃあこの辺で、失礼します」
翌日、冷えまくったモルツを飲みながら、イノシシ鍋、すなわち牡丹鍋を作る。 なんで猪鍋を牡丹鍋と呼ぶのかというと、猪の肉が牡丹の花びらのように美しいからだそうだが、オイが頂いた肉には、脂身の部分が見当たらない。 もしかすると、その牡丹の花びらのような部分は、豚でいうところのバラ肉にあたる部分なのかもしれない。 その部分がないということは、その牡丹部分は美味しいため、し止めた人の特権として持ち帰ったのかもしれない。 オイ家にあるシシ肉は、いわば残り物なのかもしれない、なんていうマイナス思考が頭を一瞬よぎるが、猪肉にはかわりないではないか、牡丹でなくたって鍋は鍋だぜ。 カツブシと昆布で出汁をとり、そこに何種類かの味噌を溶かし、酒をドボドボと注いで仕上げる。 うん、なるほど美味しい。
イノシシ肉特産化
猪は山を駆け回り、タケノコやクリ、イモなどいい物ばかり食べているわけだから、マズいハズはない、と美味しんぼに書いてあった。 朝日新聞によると、近年長崎ではイノシシ肉を特産化する動きが活発で、江迎町では実際イノシシ肉が売られているのだとか。 同町によると、オスのイノシシは商品にならないそうで、臭味が少なく、肉が柔らかいメス肉のみを市場に出しているそうな。 臭味がでないようにするために、駆除してすぐに血を抜くのだとか。
元々はイノシシによる農作物被害が増え、駆除したイノシシ肉の処分に困ったところから考え出されたのが「イノシシ肉の特産化」だったらしい。 オイの近所の肉屋でも買えるようにしてください。
ししゃも(本物):大野商店
ししゃもを食ったことがない人はいないと思うが、本当のシシャモを食べたことがある人はどれぐらいいるのだろうか。
「シシャモには本物とそうでないものがある」という話は、以前テレビかなんかで見たか聞いたかしたことがあるのだが、実際本物を味わう機会がなかったわけだ。
スーパーにいけば、少なくとも2、3種類はししゃもが置かれているという経験に基づく事実がある。 そのどれもが、真のししゃもではないのだという。 日本国内に流通している「子持ちシシャモ」の9割は、ししゃもの代用魚であるカペリンという魚だったのだ。
消費者をだましてもよいのか。 鯛として売られているものが、本当はイサキだったら問題になるのではないか。 ヒラメとして売られているものが本当はカレイだったとしたならば、世の奥様方は激怒するのではないか。 責任者、でてこい!と。
このようにシシャモ問題が社会問題にならなのは何故なのか? まずはししゃもを知ることから始めなければならぬ。 グーグルで、ししゃもを検索する。
シシャモとは?
シシャモは世界的にも貴重な北海道の特産種です。 全国でシシャモとして販売されている中で、北海道産シシャモの割合は、なんと10%以下なのです。
カラフトシシャモ (カペリン)
カラフトシシャモ (カペリン)は北極海などに分布しているマロータス属の魚で、学術的、生態的にはかなり大きな違いのある魚です。
北海道むかわ町HPより
ということらしい。 カペリンをししゃもとして売っているのだ……。
このようにシシャモが気になったわけは、「本物のシシャモ」を食べたからである。 本物のししゃもは「ししゃもの町北海道鵡川」のししゃも専門店から送られてきたものである。 何故シシャモが送られてきたのかというと、それは買ったからである。
雄と雌をそれぞれ購入してみた。 シシャモのサイズがいくつかあるが、大きいほうが美味しいらしい。 ていうかそもそもシシャモにオスメスがあることすら今まで考えたことがなかったことに気づいた。
焼く際はホットプレートもしくはフライパンの上にクッキングシートを敷き、その上で凍ったししゃも を弱火で焼けばよいそうだ。 オスは狐色に変わる位、メスは卵が硬くなった頃が焼きあがりらしい。
まずはオスを一本食べたあと、メスを一本食べてみる。 もう一度繰り返す。 雄のほうが、美味い。 普段食べている実はカペリンししゃもとは身の味がまったく違う。 タマゴがない分、ししゃもを食べているという気がしない。
メスはメスで旨いはウマイがオスと比べるとやはりオスが美味しい。
ししゃもを購入したのは大野商店で、その道では結構知られている店らしい。