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美味かもん雑記帳 > 物欲 > > あまカラ
2011/06/29

あまカラ

素材

トウモロコシは畑から取ってきてすぐゆでたものがうまい。 大根は畑で抜いて、皮をカジって剥ぎながら肩の青いあたりの一、ニ寸がうまい。 ナマコは海で取って泳ぎながら、シゴいて食べるのがうまい。 ウニは海で取ったのを生でも食べるが、海岸で焼いて食べるのがうまい。 固く乾いたホシガレイは金鎚で叩いてほぐしたのがうまい。 ボーダラは、汗が出るほど力を入れて引き裂いて食べるのがうまいのだ。

「副食物はホシイワシのたぐいである」

と、大隈(重信)はいう。 魚の頭や骨は決してすてない。 それをこまかくきざみ、塩をして貯蔵し、ときどき取り出してひば(干した大根の茎や葉)かなんぞと一緒に煮て食うのである。

魯山人とトゥール・ダルジャン

パリのノートルダムの後の方の海岸にトゥール・ダルジャンという有名なレストランがある。 ルイ十何世からの店で、出される鴨にはその頃からの通し番号がついている。 丸ごと焼いた奴を一旦お客に見せてから、料理場へ下げて、改めて味をつけて出してくるという手のこんだことをする。

それに味をつけることは、余計な手間だ。 鴨の持味を殺すようなものだ。 そのまま横腹を切ってこいといったのが魯山人である。 ~中略~ 魯山人がやおら風呂敷包をひろげて出したのは、醤油とわさびだ。 醤油は関西の何とかいううるさい醤油である。 わさびは粉わさびだが、このごろは粉のほうがいいという説明である。 そいつをガラスの底でこねている白髪の老人を、満堂の紳士淑女は珍しそうに眺めている。 コックもいつの間にか出てきて、そばにポカンと立っている。 ジイさんの得意や思うべし。

紹興酒

酒の博士坂口謹一郎さんのお説だと、日本酒の欠点(十分よさを認められた上でのことだが)の一つは、酸味がないことだそうだが、その酸味が紹興酒にはあり、しかもそのせいか日本酒より柔らかみがあったりするのも、私には魅力的であった。

紹興酒の本場の紹興地方では、女の子が生まれると、ひとかめを縁の下か何かへ入れて貯蔵する習わしで、彼女が嫁入るときそれを持たせてやるのだそうだが、なかなか洒落たことを考えたものだ。

広島県の竹原市にゆき、忠海町の宿にとまったが、そこで出された鯛のつくりは、何ともうまかった。 ここは古来、「忠海の浮鯛」といって、潮流の作用によって鯛がひとりでに浮きあがったりするので名だかいのだそうだが、このように美味であることも、やはり潮流そのほかさまざまの原因があつまってのことであろうかと、感嘆しながら考えた。

アマダイ

「分かってるけどね、この鯛、少し身がやわらかすぎるよ」私が不平を言うと、「まあ!」と、おきよさんは、呆れた顔をした。

「あんた、そんなことを言ったら笑われますよ。 これは鯛じゃないのよ。 しらかわといって、甘鯛の種類だけど、皮の白い、四国から送ってくる、そりゃ上等のお魚で、若狭焼って、お酒につけながら焼く、うちの大将の自慢料理よ。 しらかわを、あんた、鯛のつもりで、身がやわらかいからいやだなんて、そんなこと言ったら、そりゃ、笑われる」

オムレツ

ぬれタオルを小さく畳んで、フライパンにのせ、返す稽古も家に帰ってやった。 卵が二コから三コになると、ぐっと形がとりやすい。 鍋も家庭用のものより、コックがつかう大型のものが調子よくいくこともじぶんでやってみてわかった。

カニ

セイコ・ガニは腸のヨロイの下にはち切れるほど、丹紫色の「コ」(児?)を抱いている。 上部の甲羅をパリンとはぐと、サンゴ色のチーズのようなものが、たくさんついている。 それに淡い緑色のミソ。 それらを二はい酢につけて、七ハイも十パイも、息もつかずにむさぼり食べる。 これはもう、言語に絶した口の天国である。 その甲羅に酒をそそいで、ミソに交えて飲む。 これがまた、こたえられない。

ホヤ

ボクは弘前で食べた物のうちで今でも忘れ難く、かつ美味だと思っているのはホヤだ。 これはランプのホヤのような形をし、上手に切って肉をたべるわけだが、その中に澄んだ水を湛え、その味は少し塩っぱく、磯臭い香りが何ともいえない。 つまり潮の香と味がする。

津軽流の漬物

僕の家では亡母が津軽流の漬物を毎年拵えた。 弘前では富田大根に限るのだが、東京でもそれに似た大根を探し、それを陰干して一寸ほどに切り刻むのだ。 そして漬物は瓶に、その大根と身欠き鰊とを麹で漬けるのだ。

漬物に身欠き鰊とはちょっと腥いだろうと思うが、それが腥いどころではなく冬など歯に沁みるほど冷たく何とも言えない滋味となる。 その大根たるや身欠き鰊の脂が沁みこみ、麹で甘味をつけ、この漬物だけは天下の珍品だと思う。 想うにこれはアイヌ料理か、あるいはもっと昔からの伝来ならば、蝦夷からの伝授のような気がするのは、僕の偏見であろうか。

川蝉

焼鳥といえば、それ専門の店で、雀とかうずらを食わせるが、川蝉の味の前には、そんなものは、問題にならない。 大体、小鳥というのは、脂が足らないので大きな鳥に較べ味が落ちるのだが、川蝉は肉の中にしみ込んでいるようで、炭火で焼くと脂がにじみ出た。 肉は柔らかく実に微妙な味わいがあった。 今でも、最高の美味の一つ、だと思っている。

オレンジ

朝、起きだちに、フレッシュなオレンジを半分にきって、ジュースをコップ一杯にしぼり、ぐっとのみほす。 さわやかさが口のなかにながれこみ、酸味のある香りが、寝ざめの頭にしみてくる。

以上、あまカラより。

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