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2012/06/15 雑記

映画『タンポポ』よりラーメンに関する部分のまとめ

たんぽぽらーめん

ある晴れた日、僕は一人の老人にともなわれてふらりと町へ出た。 老人はラーメン暦四十年。 これから僕に、ラーメンの正しい食べ方を伝授してくれるのだという。

僕:「先生、最初は、スープからでしょうか、それとも麺からでしょうか?」

老人:「最初はまず、ラーメンをよく見ます」

僕:「は、はい」

老人:「どんぶりの全容を、ラーメンの湯気を吸い込みながら、じみじみ鑑賞してください。 スープの表面にキラキラと浮かぶ無数の油の玉。 油に濡れて光るシナチク。 早くも黒々と湿り始めた海苔。 浮きつ沈みつしている輪切りのネギたち。 そして何よりも、これらの具の主役でありながら、ひっそりとひかえめにその身を沈めている三枚の焼き豚」

老人:「ではまず箸の先でですね、ラーメンの表面をならすというかなでるというかそういう動作をしてください」

僕:「これはどういう意味でしょうか?」

老人:「ラーメンに対する愛情の表現です」

僕:「ははぁー」

老人:「次に、箸の先を焼き豚のほうに向けてください」

僕:「ははぁーいきなり焼き豚から食べるわけですか?」

老人:「いやいや、この段階では触るだけです。 箸の先で焼き豚をいとおしむようにつつき、おもむろにつまみあげ、どんぶり右上方の位置に沈ませ加減に安置するのです。 そして、これが大切なところですが、この際心の中で詫びるようにつぶやいてほしいのです。 『あとでね』と」

ガン(渡辺謙):「なにが『あとでね』だよ。 ちくしょう、ひでえもんだな、こっちまでラーメン食いたくなってきちゃったじゃねーかよぉ」

ゴロー(山崎努):「まあガマンしろよ、あと二時間で着くじゃねえか、仕事終わってからゆっくり食いに行こうや」

ガン:「そーおー?」

ゴロー:「それより続き読みな」

老人:「さて、それではいよいよ麺から食べ始めます。 あ、このときですね、麺はすすりつつも、目はあくまでもしっかりと右上方の焼き豚に注いでおいてください。 それも、愛情のこもった視線を」

やがて老人は、シナチクを一本口中に投じてしばし味わい、それを飲み込むと、今度は麺をひとくち、そしてその麺がまだ口中にあるうちに、またシナチクを一本口中に投じる。ここではじめて老人はスープをすすった。 立て続けに合計三回。 それからおもむろに体をおこし、フーッとためいきをついた。 意を決したかのごとく、一枚目の焼き豚をつまみあげ、どんぶりの内壁にトーン、トーンと軽くたたきつけた。

僕:「先生、今の動作の意味は?」

老人:「なに、おつゆを切っただけです」

タンポポのラーメン

タンポポ(宮本信子):「そんなにヒドかったですか私のラーメン」

ゴロー:「いやあ、そういう意味で言ったんじゃないんだよ」

タンポポ:「お願いです正直に言ってください。 主人が亡くなってから私、見よう見まねでやってるんですけど、ぜんぜん自信がなくて、すごく不安なんです。 是非、お二人の意見聞かせてください。 どうでしょう、わたしのラーメン。

ゴロー:「うーんそうだねえ、まあ、まじめな味ではあるんだけど、元気がないというか、力がないというか」

ガン:「はっきりいってマズいです」

ラーメン屋の心がけ

  • いらっしゃいを言うなら客の顔を見て言う。 さもなきゃ黙々と仕事をする。
  • 客が見てない時にすばやく客を観察する。 急いでいるのか腹が減っているのか、この店ははじめてか、ふらっと入ってきたのか、ウワサを聞いて来たのか、酒飲んだ後か、この店のラーメンに合うか。
  • チャーシューをその場で切るのは良い事。 しかし厚けりゃいいというものではない。 2ミリ~3ミリにする。
  • 丼を渡す際も客の顔を見る。
  • スープがすぐに飲めるのはおかしい。 熱くないラーメンはラーメンじゃない。
  • 旨いラーメンさえつくりゃ、客なんていくらでもいるわけだ。

悪いラーメン屋

動きに無駄が多い。 私語が多くて誰が注文したのかもわかんない。

スープは煮過ぎて豚骨の臭みが出ていて、豚の臭いを消すために入れた野菜も甘みが出すぎて嫌味。 丸みを出すための昆布もクドい。 背黒イワシはハラワタが臭くてラーメンスープには向かない。

麺は寝かせすぎてカンスイが芯まで染み込んでいて、食べるとカンスイの臭いがする。 雨の後はカンスイは少なめでよい。 チャーシューを茹ですぎてボール紙みたいな食感になっている。 シナチクは塩漬けでなく水煮を使っているから歯ごたえも風味もいまひとつ。

ラーメン食べるのはド素人。 素人にわからない味を作ってどうする。

良いラーメン屋

動きに無駄がなく、無言。 気合が客に伝わる。 客がどんぶりを離さない。 客が立つと、必ずどんぶりを見る。 スープはラーメンの命であり、ちゃんとスープを飲んでくれたかどうかを確認する。 客の細かいオーダーを全部覚える。

新生タンポポへ

味の基本線は綺麗に澄んだ醤油味のスープで、コッテリした迫力のあるコクを狙う。 具はチャーシューとシナチクとネギだけ。 メニューもラーメンとチャーシュー麺の二品で勝負する。

センセイ(加藤嘉)によるスープの指導

「いいですか、ラーメンというものは面白いもので、いい仕事をすればそれは必ずいい味になって帰ってきます。 これ忘れんでください」

「ではその、スープのイロハからおさらいします。 鶏はすぐに痛みますから新しい鶏をできるだけ早く使う。 鶏も豚も臭いが強いから一度熱湯で茹でて、あとよく水洗いをしてそれから使う。 野菜は丸ごと入れていいんです。 難しいのは火加減です」

「ダシができるためには十分強い火で、しかしくれぐれもこのようにグラグラ煮立たせんように。 煮立たせるとスープが濁ってしまいますからね。 そして何より大切なことは丹念にアクをとること」

ショーヘイ(桜金造)による麺のアップグレード

「ツルツルのシコシコでっしゃろ」

「麺っつうのはね、注文するときに厳密にレシピを決めて粉の配分から打ち方から全部指定せなあきまへんのや。 たとえばね、このトゥルトゥルするんは機械で生地を伸ばす時に一回ぐらい余分に圧延をかけてるんやないかなあと思うんですわ。 それに機械にかける前に生地の状態でしばらく寝かせてますね。 ただ、それをどの程度やってるのかその加減がわかりまへんのや。 カンスイもね、普通使うてるのとちょっとちゃうかもしれんなあ」

ビスケン(安岡力也)のネギソバ

「そんな悲しい顔すんなよタンポポ。 お前今、旨いもの作ってんだろ。 旨いもん作ってる時はよ、もっと幸せそうな顔しろよ。」

「ようし、じゃあなあ、俺のとっておきのレパートリー教えてやるよ。 まずな、ネギをハスに切んな。 チャーシューは細切りだ。 それを軽―く炒めて、ラーメンの中央に乗っけて、胡麻油をひとたらし。

以上伊丹十三の名作『たんぽぽ』よりラーメンに関する部分をまとめてみた。 何度観ても、いや素晴らしい映画である。

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“映画『タンポポ』よりラーメンに関する部分のまとめ” への2件のフィードバック

  1. きみすけ より:

    同感です!
    ラーメン食べたくなるんですよね!
    伊丹十三監督にはもっと映画作っていただきたかった。

  2. オイ より:

    ですよね。

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