アジの干物襲撃事件
日曜日が快晴だということは天気予報によりわかりきっていた。
美味しい干物を作るためには魚が必要なのは当然のことだが、天候も重要だ。 やはりお日様の下で程よく干した干物には自然の旨みが宿るようだ。
魚は程よい大きさのアジで、土曜日に買っておいたものだ。 朝食の準備をいつもより早く済ませ、アジ30匹を一気に開いてしまう。 開いたアジをしばらく塩水に漬けておき、干し物用の網カゴに入れて干す、予定だったのだがその網カゴがしばらく使わない間に穴ぼこだらけになっていた。
おそらく近所のネコが空腹に耐えかねて魚の匂いの残る網カゴをかじったに違いない。 野良猫たちがゴミに出しておいた肉の匂いの残る食品トレイをかじりまくっている姿をたまに見かけるし。
とにかく網カゴは本来の機能を果たさないわけで使用する意味がない。 今の季節まだハエもいないし、ネコに食べられることさえ注意しておけば、丸のまま外に干しても大丈夫だろうたぶん、という判断から、一枚板にアジをズラリと並べて干すことにした。
ネコ対策のためにベランダの、ツルツルすべるサンルーフの上に板を置いた。 ツメが立たないのでネコは歩けないらしいのだ。
あとはただ、魚が乾くまで待つのみである。 時折様子をみて、魚の裏表をひっくり返したりして、今晩はアジの干物で一杯ヤルか、とか楽しい光景が思い浮かぶ。
ポカポカ陽気で気持ちがいいので、家の前で息子とキャッチボールをはじめる。 よーっしゃ、ナイスキャッチ。
カラスが隣の家の屋根からじっとこちらを凝視している。 「ワッ!」と声を上げると飛び去っていった。
キャッチボールの後はサッカーをし、ブランコに乗り、泥だんごを作り、折り紙をして、お絵かきをした後、ドラゴンボールZを見る。 あ、そうそう干物はそろそろ完成している頃だろう。 ベランダに向かう。 「!」
目が合った瞬間、カラスはできたばかりのアジの干物をくわえつつ、足でもう一枚つかんで飛び去っていった。 このカラスはさっき隣の家の屋根に止まっていたのと同じカラスかもしれない。 もしかするとオイに「ワッ!」と驚かされた腹いせにアジをかっぱったのかもしれない。 いやもしかすると隣の家の屋根に止まっていたときはもう、アジの干物を数枚アジトに運び込んだ後で「オマエの干物かっぱったんだかんな」とバカにしながら、冷めた目でオイたちを見下していたのかもしれない。
カラスはアジの干物も食べるのか・・・注意するのはてっきり猫だけだと・・・まさか空からくるとは・・・30枚が22枚に・・・ヤツは8枚も・・・オイと家族の・・・アジをっ!
ちゃんと作るとおもわずカラスも手が出る干物を家庭で作ることができる。 干す際は干し物用の網カゴ等に入れ、猫とカラスに注意しなければならない。