牡丹でなくなっっとっとコレ【猪は脂肪が宝】
久しぶりに会った友人と話をしていたら、なんでも父親が時折イノシシをゲットするらしい。
自分で狩るのではなく、知人から頂戴するのだとか。
「うらやましすぎ、今度分けてね」
とお願いしておいたら、幸いにも間を置かず猪肉が手に入ったと連絡が来た。
すぐ頂きに向かえば、父親がビニール袋に入れた肉の塊を出してくれた。
有難く受け取ると、
「すごい大きいイノシシで、バラすの大変だったばい」と父さん。
なんでもメスのイノシシで、両手でそのサイズを表してくれたところ、もしもその大きさの猪とバッタリ出くわそうものなら、凍り付いてしまうほどの巨躯だった。
イノシシはメスのほうが旨いらしい。
オスは肉質が固いのだとか。 でもその場合は、一度冷凍してから食べると柔らかくなるという極秘情報も手に入れた。
礼を言って別れようとすると、背後から声が。
「やあ父さん、昨日はありがとうねイノシシ解体してくれて。 大きかったから大変だったでしょう」
なんでも猪を提供してくれたご本人らしい。
おすそ分けを頂く身として丁寧に礼を言うと、
「メスだから美味しいよ」と父さんと同じセリフを言った。
「100キロ以上あったからね。 脂肪も3センチは厚みがあったから食べるには最高の猪だったよ、楽しんでね」
とのこと。
私が提げている袋を見た氏は「ちょっと見せて」と中を覗いた。
次の瞬間、氏は外見と似つかわしくない突拍子もない奇声を上げた。
氏:「父さん、脂肪はどうした脂は」
父さん:「え、分厚かったね脂。 毛皮と一緒に捨てたけど」
氏:「何ばしよらすとかアンタは! あの脂こそが宝たいね! 脂肪のなからんと、猪は美味しくなかとぞ!」
氏:「よう牡丹鍋て言うやろが、あれは猪の肉ば牡丹、て言うのじゃなくてあの脂肪の層のあるやろが、あのコントラストがまるで牡丹の華のごたるけん牡丹鍋て言うと。 脂肪ば取ってしもうたら、牡丹にならんじゃなかですかアンタ!」
氏:「だけん夏場の猪は脂肪の無かやろ、そん時は冬の猪の脂ば冷凍しとって、一緒に炊けば美味しかとばい。 アンタ宝ば捨ててしもうとる! 今こん兄ちゃんの袋ば見たら、赤か肉ばかりやかね!」
父さん:「そがん大事な事はバラす前に言うてくれんね」
氏:「なんの、常識て思うとるけんコチラは。 あいやーアンタ、宝ば捨ててしまうとる」
家に戻り、今晩焼いて食べようと切り分けてみたが、わりと脂肪が残っていて期待が持てた。 次回頂く時はきっと、脂肪層の美しい肉になるだろう。
何しろ貴重な情報も得られて感謝している。