もっちゃん
テレビを見ていたら、メチャクチャ強い小学生の相撲取りが特集されていた。
10歳ながら100キロを超える巨漢 、ではなくまさに小兵である。 おそらく平均よりも大分小さいであろう痩せた少年力士が、相手の巨漢の攻撃をまるで闘牛士のようにいなし、最後はブン投げているのだ。
感心しながらこれを見ていてフと思い出してしまったのが、小学生の頃の同級生である「もっちゃん」だった。
彼は成績が特別良いわけでも、体育が得意なわけでも、体が大きいわけでも、いじめっこなわけでもない。 なんていうかこう、一クラスの一員といった微妙なキャラクターであった。
ところが昼休みに誰かが相撲でもとっていると「僕にもやらせてくれよ」と手を上げ近寄ってくるのだった。
私は彼の真実を知っていたから楽しく傍観していたが、たいていの男子ならばヒョロイ挑戦者の名乗りを聞いて「フン」と鼻で笑いながら「ケガしても文句いうなよな」という態度でシブシブ仲間に入れてあげるのだが、次の瞬間彼らはすぐに、もっちゃんがタダモノではない事を思い知るのだった。
もっちゃんと相撲をとってはいけない。
これは幼稚園の頃から一緒だった男子が皆知っている事だった。 まったくの運動音痴であるハズのもっちゃんは何故か、相撲だけは誰よりも飛び抜けて強いのだった。
ひとたび組もうものなら、もう決してまわし(ベルト)を離さない。 相手がいくら投げを打っても、足の裏から根っこが生えているかのように微動だにしない。 結果相手は何をする事もできずに倒されてしまうのだった。
もっちゃんが投げるのではない。 相手が力尽きて腰砕けになってしまうのだ。
彼は今、大学教授をしている。 365日、白いスーツを着込んだ変人として近所でもよく知られており、体はデップリ太って今の方がいかにも力士らしいが、相撲は小学校の頃以来一度もとっていないらしい。
今なら私、もっちゃんに勝てるのかもしれない(笑)。