ネムの木
「みんなワールドカップ見てんですかね…あ、フランスだ」
数年ぶりに訪ねたこのBarにお客は私を含めて5人程。 うち二人は会計処理を行っている最中だ。
店がヒマだと終始ボヤくマスターの顔にかつての精気はない。
「何にします?」と聞かれたので『何か眠くなりそうなものを』と答えた。
店に入ってすぐ気になったのは、ずいぶん照明が明るくなった事だった。 Barのズッシリとした重みのない、安スナック的明々感は、店内の隅々まで見渡せて雑然とした細部につい目が行ってしまう。
壁面に設置されているモニターではサッカーが流れており、その明かりのせいもあるのだろうか、座っていて妙に落ち着かない。
もう二人も会計となり、残る客は私一人となってしまった。 共通の知人の話をしたら、近頃めっきり来なくなったのだとか。
歩いていてたまたま思い出して入ったこの店だったが、中々こう、お客を呼び込む引力はもうほとんど残されていない様子だった。
健闘は祈っている。