あしゅら

知人が主催する宴に出席した。
お客として、ゆったりチーズをつまみながらワインを飲んでいたところ、どうやら場が盛り上がりすぎて人手が足りていない様子。
「俺がやらねば」とつい包丁を手に取った。
何かを刻んだり、炒めたり、割ったり、からめたり。 料理に関しては言われたら5馬力ほどの働きはできる。
あらかた落ち着いてきた所でフと流しに目をやれば、うず高く積み上げられた洗い物の山……家事職人の血が騒ぐ。
スポンジと洗剤を手に、大皿から小皿まで次々磨いては食洗機へ。 普段はただ喰って飲んでいるだけの身分だから、随時運び込まれてくる洗い物も多さに目を皿にした。
洗っても洗っても一向に減る事のない食器たち。 ワイングラスをピカピカに磨いたと思えばうっすらこびりついている口紅のしつこさ。 コーヒーカップの底にヌルつく油。
アメリカ映画を観ていると、苦学生の仕事に皿洗いがよく出てくるが、まさに心はその気分。 二十の頃、友人のバイトを手伝った事があり、その時も今と同じように皿を洗ったが今回の量はその比でない。
次第に悲鳴をあげる腰。
約一時間、黙々と洗い続けた食器を全て棚にしまい終えた時の達成感はスゴかった。 皿洗いは誰にでもできる仕事であるが、それだけに心の込め方が肝要だ。
席に戻ってまたワインを飲みはじめたら、そこそこに太って、そこそこ老けている紳士から声をかけられた。
見ていましたよ、実に豪快な洗いっぷりでした!
と。