オイとオイ
Barで一人静かにテキーラを嗜んでいる時の事だった。
突如私の名を呼ぶ声がしたので振り返れば、うしろのテーブルに座るグループから発せられたものだった。 確認したところ知り合いはいない。
聞き違いでもしたのだろうとまた飲みはじめたら、
「あのさぁ、オイってジェネラルリサーチ昔好きだったよね!?」
と再度私に呼びかけてくる男がいる。 たしかに昔そのブランドに凝った事もあったがどうして彼はそれを知っているのだろうと、ゆっくり振り返った。
すると半ズボンに下駄を履いたアフロ頭の男が
「そうだったっけー、俺グッドイナフのほうが好きだったぜ?」
と返事をしている。
なるほど、この人物と名前がカブっているというワケか。 その集団を見るかぎり、たぶんひとまわりは私より若い。
下駄の人は人気者なのだろうか、やたらと名前を呼ばれている。 そう呼ばれる度に別人の事だと分かっていながらつい体がピクと反応してしまう。
かのゴローズも好きであるらしく、たしかに趣味はかつての自分と割にカブっている。
とつぜんマスターから「子供の頃好きだったアニメは何です?」と聞かれた。
なんでも前の客とその話題で盛り上がったとかで。 自分でも意外だったのだがすぐ頭に浮かんだのは、
「うーん、キン肉マンですかねえ」
だった。
喜んだのはマスターで、自分もどストライクの世代だそうで、やれキン消しは何個持っていたかとか、ドクターボンベは気に食わん等、覚えていたりいなかったりする話題でふたり盛り上がってしまった。
それを聞いていたのがうしろの下駄氏である。
「キン肉マン好きなんっすか、俺もっすよ!」
ひとまず名前が同じだという事を伝え、固く握手をした夜だった。