懐柔(海獣)策
あくまでも個人的見解ではあるが、どうやら酒に弱い人は舟にもそのようである。
子供会の行事で毎年この季節、私は舟に乗ることになる。 かれこれ5年のルーチンだ。
交通整理、書記、審判等他にも親へ割り当てられる仕事はあるのだが、どういうワケか保護者の皆さんは舟がニガテで酔うらしく、だから何ともない私にその役が回ってくるという寸法だ。
重労働ではまったくない。 ただ単に、舟の上からぼんやり子供たちを、見守っているだけである。 こちらとしては、潮風を浴びながら、普段とまったく異なる視点から世界を眺める事ができて、とても気に入っている。
ただ一つ難点があるとするならば、約半日、太陽の下拘束されてしまう事だ。 さんさんと降り注ぐ太陽は、乗って間もなくは恵みである。 しかし、二時間も経てばそれは苦痛になってくる。
というようにこの係はもはや慣れっこになっているので、帽子にサングラス、薄手のネルシャツという出で立ちで、日よけ対策は万全だったハズなのだが・・・。
想定外だったのが、船頭さんの孫が同乗していた事だった。 帽子にリュック、タオルに水筒と、準備万端の小学一年生だ。
「ねえ、どこから来たの?」 「何歳?」 「彼女いるの?」 と乗船早々質問攻めに合う。 だがこちとら四児の父である、そんなもな慣れっこなのだガハハ。
たくみにいなし、落ち着かせながら船上での余暇を一緒に楽しもうと誘導してゆく。
・・・はずだったのだが、まったくいう事を聞いていない暴君だ。 リュックからおもむろにチョコレートの箱を取り出しては、その溶けだしたチョコを手づかみでムシャついては、ベトベタになった手をこちらのシャツ目がけて拭きに来る。
「ちょっと待った!」
と言った時すでに遅し・・・シャツはホワイトチョコだらけになってしまった。 何が楽しくて直射日光の下チョコのこびりついたシャツで風を颯爽と浴びねばならぬのだ、ベトベタになるわ。 脱いでTシャツ姿になった。
子供はやたら、大人の着衣が気になる生物である。
「そのTシャツの顔はだれ?」
「外国の歌がとっても上手い人だよ。 さあ、それよりもあの雲見てごらん、ゴジラみたいな形だぜー!」
「そのメガネは前が見えてるの?」
「見えるよ。 まぶしいから、かけてんの」
「ちょっとかけさせてよ」
「キミには大きすぎるからムリ」
「一回だけ!」
「すぐ返してね・・・」
新調したばかりのレイバンだ・・・壊されそうで気が気でない。
結局この調子で帽子も取られてしまい、もはや何を楽しむどころではない、ヤンチャ息子の世話係である(おじいちゃんも孫の面倒みなさいよ)。
そして気がつけば、体のアチコチがヒリヒリする状態に。 地上とは段違いで日焼けしてしまうのは、あたかも女優ライトみたいに海面の照り返しが強烈だからである。 後半やや薄曇りの展開だったが、かえってこんな日は紫外線がキツい。
家へ戻って鏡を見たら、顔は真っ赤になっている。 腕は時計の部分だけが白い。 頭皮も少しヒリヒリするようだ・・・まさにハングオーバーの彼(ページトップ画像)状態。
こうして書いている今すでに五日は経とうとしている所、鼻柱の皮がポロポロとれて、外出もハバカラレル状態なのである。 明日大事な人と会うんだよな・・・そろそろ船は引退するか。