とらのうた

蟹悪さしたように生き
たまたまつけていたBSで、突如流れたこの一句に衝撃を覚えた。 しかも作者はフーテンの寅、渥美清さんである。
その後食い入るように番組を観終わり、風天(渥美さんの俳号)の生み出した句のあまりの美しさにしばしボー然と、した。 渥美さんがこんな才能もお持ちだったなんて。
すぐさま検索して風天俳句のまとめられた一冊
を手に入れ、毎日少しずつ読み進んでいった。 なんという曇りのない心。 美しい日本語。 詠んでいると車寅次郎の声が聞こえてくる。
実は数年前から俳句に興味があり、新旧俳句の入門本を読んで勉強してみては、こっそり自作してみて、はずかしくてどこにも出せないでいたりする。 渥美さんの俳句を見ていると、とてもじゃないけど人前に発表できる気がしないという思いが強まってくる。
だが、俳句は公表するために作るものでも誰かのものと比べるものでもない。
ひとりでも楽しめる。 みんなでも楽しめる。 何べんでも楽しめる。 自分で季題を与えることができて鉛筆と紙だけで歳時記を見てウンウンうなりながら作って、その句をみんなの前にさらす。
選ばれるかどうかドキドキして、選ばれたら自分でもあらっ、という意外な解釈をされて、作品が一人歩きしていく……という知的なゲームである。
と書中で冨士眞奈美さんが言われており、まこと俳句に対しての完璧な表現だよなと膝を打つ。
「芝居も暮らしにも贅肉がない人」
と、渥美さんは周囲から評されていたらしい。 まさに一句一句は渥美さんご自身なのだということが目を通す度、声に出して詠む度感じられる。
五七五の十七音より長い俳句を長律といい、渥美さんの句には長律が多い。 又、十七音以下のものを短律といいこれもまた渥美さんには多い。
でもそこがまた、いかにも劇中の車寅次郎を思わせるスタイルで、風天の句が大好きな所なのだ。
※本中記載のあった清水哲男氏の「増殖する俳句歳時記」は、いまどきめったにない古き良きウェブサイトである。