さらこう

散歩は好きですか。
暇ができると散歩に出かける。 家の周囲だけではつまらないから、車にNANOOを積んでくり出す。
もちろんよく知っている場所へは向かわない。 まったく縁のない、観光地でもなんでもない所ほど見どころ満載なのである。
農村の古民家にお年寄りが一人暮らしをしていて、土壁が崩れて中の藁や竹材がむき出しになっている様がまた美しい。 一言伝えて写真を撮っていると、「こんな家のどこが珍しかとやろね」と老人は話しかけてくるが、これぞ後世に残すべく日本家屋の姿である、と力説するも釈然としないその表情がまた素敵だ。
林の中を歩いていたら、石巻貝がポツンと落ちているのを見つけた。
この貝は小川に生息しているもので、こんな水気のない山の中にいるなんてどういう事だろう、とつまみあげたらなんと、貝ではなく種だった。 ビワの種と質感が似ているが、まんま石巻貝の殻の形をしている。 自然の生み出した偶然の凄まじさをほんの種ひとつで感じられる事が、最高。
漁村の住宅地に今も残る木製の電信柱に遭遇したときは興奮した。 その基に、小指ほどの白い貝殻が落ちていた。 つまみあげたら「グニャリ」と柔らかかったのでとっさに手を放した。 貝は音もなく地面へ転がった。 当然ながら貝の殻は固いはずだ。
もう一度よく観察すると、白い貝だと思ったものは、シリコン製のハイヒールだった。 たぶん人形用なのだろうが、電柱の下に落ちている片方の白いハイヒールだなんて、実にシュール。