当たられ屋

ホロ酔い気分の3人は、飲み屋街を歩いていた。
そのうち初老のひとりが、階段を下りた勢いでよろけ、目の前の看板を足でひっかけ倒してしまった。
幸い本人も看板も、ダメージはない。 ひとりは看板を元のように起こし、もうひとりは初老の脇を抱えて立ち上がらせた。 そして再び三人は、楽しく肩を並べて練り歩く。
突如背後から威勢の良い声がした。 よく耳をそばだてると「オイ、ちょっと待て!」と言ってるようだ。 どうやら我々に向かって発しているらしい。 振りかえれば、男が二人走ってきた。
我ら:「何か?」
男ら:「ウチの看板壊しただろ、なに逃げてんだ!」
我ら:「あの店の人ですか? 看板倒してすみませんでした。 でも看板どこも壊れていませんでしたけど」
男ら:「壊して何逃げてんだといってんだ」
とんだ言いがかりである。 酔っ払いと思ってナメられているのかもしれぬ。 心地よく酒の回った頭は一転、潮が引くように冷静さを取り戻しはじめた。
我ら:「看板の、どこが壊れているのか見せてもらえますか。 あとその物言いは何ですか。 『逃げてんだ』というのはおかしいでしょう。 逃げる人がどうして看板を元のように立てなおし、歩いてるんですかまったく。 とにかくさあ、看板のどこが壊れているのか教えてください」
男ら:「ラチあかん、警察呼べ警察」
「は?」 実にメンドクサイ展開となった。 だがしかし! 警察でも何でもとにかく呼んだらよろしい。 看板を倒した当人は、何が起きているのかわからない模様。 残る二人は、何故警察を呼ばれたのかが釈然としない。
5分後警察が到着。 何故か総勢10人という大部隊である。
せっかく今宵は良い酒だったのに、このエンディングは何なのだ。 頭きたからな、覚悟をしろヤクザ居酒屋め。
我ら:「はいご苦労様です! どうしてここに、総勢10人で来られたのか教えてもらえますか?」
警察:「ご苦労さまです! ええ、酔っ払いが暴れているという通報を受けまして」
我ら:「ちょこざいな。 警察の皆さん、これから私たちの身に今しがた起こった事を、事細やかにご説明さしあげますからよく聞いておいてもらえますか」
警察:「了解です」
我ら:「かくかくじかじか・・・」
我ら:「ね、おかしいでしょう、おまわりさん。 ちなみに店が壊したと言っている看板はまさにコレです、さあ皆さんで、ためつすがめつしてみてください。 どこも壊れていない事がおわかりでしょう。 というか、私達を通報した店の人の姿が見えませんね、お店から呼んできてくださいよ二人の男を」
「警察連れてくる」
我ら:「警察呼んでおいて、どこ行ってるんですかまったく。 今一連の事を詳細に説明しましたが、あとは何がお望みですかおたく達?」
男ら:「・・・」
こうしてものの10分ほどで、ハイタッチしながら警官たちと別れた。 3人はあの男たちがなぜ壊れてもいない看板をすごい剣幕で壊したと言い、あげく警察まで呼んだのかを、アーでもなくコーでもないと、議論しながら次の店を探した。 飲み直さずにいられっか!