イタチのキモチ
この冬始まった現象だ。 近頃度々、屋外のゴミ箱が荒らされるので、誰の仕業かと思えば「イタチ」だった。
颯爽と現れてはゴミ箱に飛び乗り、一瞬のうちに鼻先でフタを開いて中にもぐりこむ。 その動きの滑らかさときたら、もう何十年もそうやって生活してきたかのように一切無駄がない。
初めのうちは、現れたのを見かける度、息を殺して様子を見守った。 子供たちも珍しい来客に目を丸くした。
ところが実情は、ゴミを荒らされているわけだからゴミ袋が所々破けていたりもし、ゴミ出しの際に具合が悪い。 そこで入り込めぬよう、フタの上に重石をかけることにした。
とっさに目についたのが砥石だ。 荒研ぎ用のズシリとするもの。 あの体格ならば、自分よりも重たいであろうこの砥石をのけて、中に入る事なんて不可能だろう、と確信していたわけだが・・・。
翌朝になると、ゴミ箱の横に散り散りになってしまった砥石の姿。 長年愛用していたのになんちゅう事態になってしまったの・・・もちろんゴミは荒らされている。
「ゴミ箱を施錠できるものに買い替えるか」と言えば「メンドウ」と家内より苦情が。 そこでとっさに目についたのが、次男愛用のティラノサウルスだったのだ。
ともすれば、これをゴミ箱の上に置いとけば、イタチは恐れおののくのではなかろうか。早速次男の許可をとり、フタの上に置いた。
すると効果テキメン、イタズラはピタリと治まった。 日が落ちて、イタチは「さて今日もイシシ・・・」とやってきたところ、ゴミ箱の上に見たことのない恐ろしい顔をした生物が立っていたわけだから、さぞ驚いたに違いない。
早速次男に報告すると、満足げに胸を張った。 「そりゃオレのティラノは強いけんねぇ」 そこでハタと思いついたのが、他のものでも試してみようという企画。
次男のおもちゃ箱の中から、イタチが怖がりそうなものを厳選。 「これじゃ!」と次男がつかんだのは、数年ぶりにその姿を見たホホジロザメ。 よく遊んでたんだよなあ次男。 ティラノをのけて、これをゴミ箱の上に置いたのだった。
翌朝、いのいちばんにゴミ箱へ向かう。 するとホホジロザメはゴミ箱の脇に落ちており、中のゴミは荒らされたいた。
サメは恐ろしくないらしい。
次に選んだのがライオン。 さてその効果は・・・テキメン! イタチはその後、チラリとすらしなくなった。 背格好は自分と同じぐらいだが、その尋常ならぬ凶暴な顔立ちにしっぽ巻いて逃げ出したのだろう。
と思いきや、昨日イタチが現れた。 またスルスルとゴミ箱に上り、ライオンをボトリ、と落とすのかと思いきや、しばらくとなりに居座ってから、サッと居なくなった。
「もしや、フィギュアだとバレたのか?」と肝を冷やしたがそうではない様子。 もしかすると同志だと思い始めているのかもしれない。 とこうして書いている今も、イタチの動向が気になって仕方がなく、砥石については取り返しのつかない事をしてしまったと後悔している。