無意志的記憶
正月婆ちゃん家へ遊びに行った折、仏壇に手を合わせていると、誰かが後ろから力なく肩をたたいてきた。 振り返ると次男が立っていて、「ちょっとこっちに来て」と言う。 顔は白々としていて表情は冴えない。
手をひかれて言われるがままについていくと、そこには一本の柱があった。 「こんな所に柱あったっけ?」
次男はオイの顔を見上げ、それからすぐに柱の根元を指さした。
「パパ、木から足がはえているよ。」
ギクリとして根元を見ると、一部がたしかに足に見える。 なんだか豚足のようにも見えるなあ、と感じた次の瞬間、この「柱足」に関する記憶がよみがえってきた。
たしかにこの柱、昔から婆ちゃん家にあった。 当時少年だったオイたち一味は、ある日この柱を発見し「足がはえている!」と大騒ぎした事があった。 あったよなあ。 感慨深く足を見つめていると、また別の記憶が湧き上がってきた。
「たしかこの物置のドアの下っかわにボールペンで・・・」やっぱり! 「よ○こはバカつりヘタ」この悪口は、昔のオイが書いたものだ。 消えずにそのまま残っていた。 当時、親戚一同集まった際、子供たちは子供たちだけで集まって遊んでいた。 自然と年長者がリーダーになり、子供たちをまとめて仲良く遊んでいるのだが、やはりイザコザが起こるときもある。
けんかの相手が自分よりも大きくてかなわない場合、遠く離れて悪口を言って逃げたとしても、追いつかれてひどい目にあってしまう。 でもなんとかして一矢を報いたい気持ちがあって、ドアへの悪口になったわけだ。 見つからないように見えにくい場所へこっそり書いたにも関わらず、書いた事がうれしく、しかもスッキリとしたオイは、他の子にその現場を見せたくて案内した。
ところがその子は裏切り者で、よ○こ本人に告げ口した。 結果鬼の形相で駆けてきた彼女に大変な目に合わされた。 当時よ○こは皆よりもかなり年上で、ケンカをしても集団内で1、2を争う猛者だった。 ただし、釣りはヘタだった。 今では立派な美容師さんになっている。 だから今は頭をさしだしてもゲンコツを食らうのではなく、心地よいシャンプーをしてくれる。
柱を一目見ただけでよみがえってきた記憶は、次々と連鎖的に昔の事をひっぱりだしてきた。 あまり思い出したくないようなことも沸いてきたが、これもまた、かけがえのない思い出。
柱足は次男の記憶にも残るのだろうか? 大人になった時、今日の事を思い出してくれるのだろうか。
※今回の写真は長男がGR2で撮影したものです。