市場
薄暗い場内はザワザワ黒山の人だかりで、所々ぼんやり輝く白熱灯が、人を、食材を照らしている。
子供であるオイの視界は悪い。 時折、大人の脇下から店を覗けば飴色をした巨大な肉塊がぶら下がっており、捕らえられた宇宙人みたいな小鳥の丸焼きがずらりと並べられている。 たしか一匹150円だったか。
量り売りのホルモンは、ひとすくいされる度キャラメル色の漬け汁を滴らせる。 プロレスラーみたいな店主とやりとりしている買い手は喧嘩しているようにも見える。 「汁ばしっかり切ってからはかりに乗せんばさねあんたも」と怒鳴りながらも、互いに嬉しそうだったりもして。
そんな光景を期待しながら何十年ぶりかに訪ねた某所の市場は、想像と全然違っていた。 閑散としていて、降りっぱなしのシャッターが目立つ、もはや市場の体をなしていない寂れ方だった。
もしかするとあの蠱惑的な光景は、脳内で都合良く作り出した妄想だったのかもしれない。 もともとそんなんじゃなかったのかもしれない。