すずめの焼き鳥
子供の頃、親に連れられ度々市場に足を運んだ。
その時の光景は今だによく覚えているが、中でも印象的だったのが、スズメの焼き鳥である。
日本人に一番なじみのある鳥は、スズメではなかろうか。 鶏もなじみ深いが、それは食品としてであろう。
「スズメを食べる」と言えば皆「正気か」という顔を返してくるが、昭和の時代には上に書いたよう、スズメを食品として扱う文化も存在したのだ。
もちろん当時、親父と一緒にかじった事もあった。 骨々しくていくら噛んでも呑みこみきれず、口から出してしまい叱られたっけ。 甘じょっぱいタレの味だけが舌に残った。
先日京都散策に出かけ、ウワサに聞く錦市場に初めて踏み込んだ。
今どきこんなに活気のある市場が国内他にあるだろうか、というほどの盛況ぶりで、平日なのに観光客であふれていた。
流行っていそうな店や、そうでなさそうな店もズラリと並ぶ中、一度市場を通り抜けて、また引き返す際まっ先に入ったのが、刃物屋の有次さんである(京都有次のアジ切りゲット)。
この時代だというのにネット販売していない職人気質の会社であり、今回この市場を訪ねた理由のひとつにもなっているのであるが、ズラリと並んだ包丁をためつすがめつした後に、二本の包丁を手に入れた。
いずれもアジ切り(小出刃)であるが、一方のそれは、私の知る形ではなく小型の柳葉包丁のように長い。 店員さんによると、西と東で形が異なるのだという。
店を出たら目の前にあったのが、川魚専門店である。
その店先で、ウナギのくりからと鯉のあらいを手に取り、会計を済ませようとした時目についたのが、スズメの焼き鳥だった。
一串に二羽刺さって500円程度。 記憶通りの干からびた姿をしていて随分小柄なスズメである。 というか羽毛を抜けばそこらのスズメもこの程度なのかもしれない。
数本購入し、いくつかは家族に見せたらどんな反応をするのだろうか、という興味からおみやげとし、その他は買ったハナから包みを解いてかじりついてみた。
あっけなく砕ける骨。 肉はほとんど無いに等しいので骨の香ばしさとタレの甘辛さのみを感じる舌。 ビールが欲しくなる味である事には間違いないが、それなら他にいくらでも肴になるものがある。
言ってみれば、このスズメの焼き鳥は、見た目こそ酒の肴然としているが、風味はどちらかといえばスナックである。
おやつにかじるにはちょうど良い味だというほうが自然。
ただ外見がこれだからねえ、こんなのかじっている子供とすれ違うと、つい呼び止めてしまう事必至である。
とっくに消滅した味だと思い込んでいたこの串は、今でも古都で脈々と作られ続けていたのであった。