からすもりな息子
息子はマイペースである。
からすみ仕込みに忙しいオイの横に来て、じゃがむ。 「何やってんの?」と聞かれる。 「あのね、カラスミを作ってるんだぜ」と答える。
「からすもり?」いやいや。「かーらーすーみ」「え?からすもりー?」
あー、そうそう。 からすもり。 大して違わないしまあいいか。
できあがったカラスモリを肴に飲酒していると息子が近寄ってくる。 「からすもりうまい?」 すこし食べさせてみる。 息子、大変気に入ったらしく、大声で遠くにいる嫁に「マーマー、からすもりうまいー」と感想を述べる。
再三にわたり、からすもりをちょうだいとせがまれ、その都度食べさせてあげる。 それがヨメにバレる。 「塩分とりすぎ!」なんて健康上の注意をされる。 「大根といっしょにかじってるから大丈夫だし」とスカす。 翌朝起きてきた息子は、いつもよりもやけに顔がムクんでおり、やはり塩分とりすぎだったのかな、なんて少し反省した。
磯遊び
ポカポカ陽気だし、息子をつれて、海にでも行ってみようか。 潮がひいており、浅瀬がたくさんある。 磯遊びには絶好のタイミングだ。 カニが横歩きしている姿に興奮した息子は、それを追いかける。 穴に逃げ込まれる。 はいつくばって穴を覗き込み、カニが奥に隠れているのを確認する。そして小声で「おい、パパ、ちょっとこっちに来い。 カニが隠れているぞ、捕まえろっ!」とオイに指令を出す。
息子は今、またいつものように、何か特撮モノのヒーロになりきっているのだ。 そんなときは、オイに対する言葉が命令口調になる。 オイは「ハッわかりました!」と言われた通り、穴の中のカニを引き出そうとする。 しかしカニだってそう簡単に捕まるわけにはいかない。 穴の奥で、必死にがんばっており、棒きれでほじってもでてこない。 時折その棒切れをはさむのだが、その瞬間こそが、引きずり出すチャンスだ。
しかし何度トライしてみても、カニはでてこない。 その様子にしびれをきらした隊長(息子)は「どれ、ちょっと貸してみろ」と、棒きれを指差す。 棒きれを渡す。
棒きれを穴に差し込んだ息子はこう言う「カニー、はさんでー」隊長は、カニと会話ができるのである。 オイは力ずくでカニをほじくり出そうとした。 隊長はカニにその大きなハサミでちょっと棒きれをはさんでみてくれないかとお願いした。 なんだかイソップ物語の北風と太陽を思い出した。