熊出没!?
朝、日課のランニングに出かけたら、山道で何かしらの気配がする。
走り馴れた道なので、少しでも変化があればすぐに気付ける自信はあるが、別段変わった様子はない。
ちょうどカーブに差しかかる頃、その脇に立っているボロ小屋を通り過ぎた所で横目に何かが入ってきた。
振り返ると、熊の置物がうっそうと茂る草刈り前の雑草の中から顔を覗かせている。
ちょうど茂みから頭だけをヒョイと出している格好。 前を直視したまま微動だにしない。
誰かがイベントか何かで使用して、ここにでも捨てていったのだろうか。
折り返し地点を過ぎ斜面を一気に駆け下りる。 またさっきのカーブに差し掛かったら、依然として熊はそこに立っていた。
今度は「あそこに熊が立っている」という認識があったから、すぐにそちらへ目をやった。
するとどうだろうか。
置物にしてはやけにリアルではないか。
通りすぎて5メートルばかりしたところでいったん歩をゆるめ、振り返ってまじまじその置物を見た。
黒い毛並みに丸い耳。 まさしく熊の姿。 しかしよく出来てるなと感心しながら去ろうとした時、
ザザッ、と熊は動き出したのだった。
驚いて身構えると、草むらから熊は姿を現した。
こちらへとぼとぼ歩いてくるが、その姿の立派な事。 しかしなんでこの長崎に熊が。 いやいまの時代、何が起きてもおかしくはない。 とっさに逃げだそうと後ずさりすれば、熊は熊ではなかった。
丸々肥えた、巨大なイノシシだったのである。
普通イノシシの毛は黒くない。 こげ茶、といった色味をしているがこの個体は真っ黒である。 おまけに耳も丸いし、直立でもしなければ茂みからポッカリ顔だけを出す事もできまい。
それで当然熊だと理解したのであった。
このイノシシは幾多の危機を乗り越えて今日まで生存してきたのだろう。 イシダイは成熟した個体となると、縞が消えて体が黒味を帯びてくるが、それと似たような感じでこのイノシシの毛は黒く変色したのかもしれない。
とっさにシメで鍋にでもしたらさぞ旨い肉だろうなと思った。
今思い返すとさっきは気づかれないよう気を消していた、という表現が当たっているかもしれない。
イノシシはこちらに向かってくるでもなく、脇道から草むらへ消えていった。