探し物・見つからず

子供達が学校で勉強したノートや教科書の一部を保管する事にしている。 皆がこの家を旅立つ時、それらをセットにして持たせてやりたいと考えているのだ。
無論本人たちが「そんなの要らない」と拒絶するかもしれない。 たとえば今この事を話しても、たぶんピンと来ず「捨てちゃって良いよ」など乾いた反応を示すと思う。
だが人生は長いのだ。
成人し、フと昔の記憶に思いを馳せる機会が必ずあるハズだ。 その時のキッカケのひとつとして、子供の頃に書いた絵や作文が役に立つハズ。 そう父は考えているワケだ。
ひとつ思い出深いスケッチがある。
ある、と書いたがどうしても見つけられない長男の書いた紙切れがあった。 もう一度見たいといくら彼の荷物を整理しても、どこにも見当たらない幻の作となってしまった一枚には何が書かれてあったのか。
それは、当時の彼自身全てを取り巻く世界だった。
A4用紙に迷路を書くのが好きだった小学校に上がる前の長男は、その日もエンピツでせっせと書きはじめた。
かなり没頭している様子だったので何を書いているのかと覗き見したら、小さく描かれた自分の周りに兄弟、親、アニメのキャラ、乗り物、友達……好きなものも、嫌いなものも、当時の彼の周りに有るもの全てを一枚に書き出していたのだ。
A4用紙がビッシリ埋まるほど書き尽くされた息子の世界。 完成したものを渡された時、私はただボー然としながらその画に見入ってしまったのだった。
自分の息子を褒めるのも何だが「凄いぞこれは」と。
たしかにその時、この紙をクリアファイルに入れて箱に閉まったハズなのに、それがなぜだか見つからない。 今でも強く記憶に残っているあの絵をしかじかと、眺めたいのだと当の息子に話してみると、
「そんなの描いたっけ?」
と、すでに本人は忘れてしまっている模様。 だからこそ、息子自身にその時の一枚を見て吟味してもらいたい衝動があるのだが、もしかすると、これはかなわぬ夢となってしまったのかもしれない。
あらためて子供の想像力の凄さを垣間見たあの日の事を私は死ぬまで忘れないだろう。