いちまーい…にぃーまぁーい

リビングに見慣れぬ貯金箱が置かれている。 プラスチックの立方体でスケルトン。 中には小銭が三分の一ほど入っている。 よく見れば百円玉の割合が多い。
「これ誰のー?」
長女のものだった。 なんでも友達から貰ったそうで、これを機にコツコツお小遣いを貯めて、目当ての服を買うそうで。 満タンになったら金づちでたたき割るらしい。
そういえば日々の生活で蓄積していく小銭を貯めた壺がウチにはあった。 「足せば一瞬で満杯にできるけど」と提案したところ、スッパリ却下された。 自分で貯めなきゃ意味が無い、と。
ところで一体幾らほどこの壺の中には小銭があるのだろうか。
気になりだしたらウズウズしてきて銀行へ持ち込んでみることにした。 とはいっても銭はとてつもなく重たい。 とても全てを持ち運ぶ事はできない。 そこでキッチンボール一杯に小銭を入れて、両替してみる事にした。
突如ボール一杯に小銭を入れた大男が入店してきてさぞ行員、お客はザワついた事だろう。
腰掛けているとお呼びがかかったので、いざ両手にボールをかかえて窓口に立った。
「あのー、両替してみたいんですけど」
「かしこまりました。 手数料が○○円必要となりますが、通帳に入金という形にすると、無料となります」
「では通帳へお願いします」
「かしこまりました。 ところで小銭の枚数を数えておいででしょうか?」
「いえ。 さすがにこの量人力で数えるのは困難かと…」
「恐れ入りますが、事故防止の為、両替するには各小銭の枚数を数えてからお持ちいただくようルール決めされておりまして…」
「えー(白目)」
という事でボール一杯の小銭はそのままウチに戻ったのだった。 では今所有している全小銭はいったいいつ、日の目を見る事ができるのだろうか。
「えーっと、五円玉が六百四十二枚で…十円玉が五千九百…」なんてそんなアナログな数え方を客に押し付けるなんて、やっぱり銀行はどうかしている。 だっておたくら機械にガーッと通すだけでしょ。
数えてこいというのならそのマシンをひとつ無償で貸し出してはくれまいか。
事故、というのはおそらく「もっと膨大な額になるハズだおれの小銭たちは!」なんてクレームをつけてくる客がいたりしてその事を指すのだろうが、それなら「両替後の金額に有無を言いません」というサインを書かせると良い。
こういう日常の雑務にこそ、細やかに対応すれば、地域住民の信頼を得られるハズだと思うのだけど。