え、長崎で飲んだ帰りのお土産は何が良いって? それなら志乃多寿司でカブっちゃいなよ!
夜桜を腹一杯見物し、酒もたらふく飲んで、少し酔いも冷めるかなと歩きながら目指したのは銅座にある志乃多寿司。 もう何十年も、呑んだ後のシメとして利用させてもらっている老舗だ。
店構えは、知っていなきゃ通りすぎてしまうほど小さい。 店の中がまた、カウンター数席ばかりの鰻の寝床。
いつ入っても客が居ない事はない。 サラリーマンが一人で静かに呑んでいたり、「一体いつから呑んでるの?」と訊きたくなるほど、完全にデキアガっている熟練マダムの集団等。
ひっきりなしに店の戸が開くのは、カブリの注文が多いからだ。 注文主は夜のお姉さんの割合も高い。 たまに身勝手な注文が耳に入る事もあるが、粛として対応している大将の姿が実に凛々しい。
この店で教わった事は多い。 シメサバの骨抜きの際、頭のほうの部分には三本の中骨がある事。 ヒラメの皮で美味しい煮こごりが作れる事等、今にその知識が生きている。
握りがまた旨い。 客の金で高級鮨を食べまくっている銀座のお姉さんを連れて行った事があったが、絶賛しておった。 出された寿司が目の前に置かれた瞬間「クッ」と沈む、なんて事はない、変哲もない寿司ではあるが、ウニは絶品、その他のタネも鮮度抜群なのは長崎ならでは。
思案橋界隈でたらふく飲んだ後にカブリを五人前注文し、出来上がる間カウンターに腰掛け熱燗と握りを注文し、トボトボつまむのが常だった。
この夜、いつもと同じように千鳥足で、店の前まで来たところ休業の張り紙を見た。 文面からすると、どうやら休業というよりも、永遠に閉めちゃったのだと解釈した。 酒が抜けていくのを感じた。
父の代から我が息子まで、三代に渡り大変世話になった寿司屋である。 もう一度だけ、カウンターでゆっくり熱燗を呑みたかった。
新・志乃多寿司!?(2017/09/27追記)
前の店の並び、わずか10メートルほどの場所に白い外装の志乃多寿司を発見、迷わず入るとそこは入口ではなかったから横に回って正式入店した。 カウンターには若い板さんと、志乃多寿司にいらした板さんがおり、メニューもほとんど同じな様子。
握りを注文してみると、相変わらず鮮度抜群のタネだった。 どういう経緯かご存知の方いらしたら是非教えてくださいませ。