稲水器 あまてらす

「日本酒の品揃えが豊富な酒場」というのも昨今増えてきた(ザンネンながら長崎の話ではない)。 もはや銘酒をズラリと並べておくだけでは競争に勝ち残れない。
「稲水器 あまてらす」も又、日本酒にめっぽう強い店である。 この東池袋一帯は、最近新宿で飲む機会が多かったせいか、とても落ち着いて見える。 店に入ると客も静かにグラスを傾けているしっとりした空間だった。
名物に旨いもの有
刺し盛りが名物でして、作るのに時間が必要なので、注文するなら今のウチにどうぞ
と席に着くなり言われたから、せっかくなので人数分お願いしたところ、同行者が一言「最近こういうお店増えましたよね」とつぶやいた。
彼曰く、刺し盛りは楽に単価が稼げるからだという。 その点については私も同感で、はっきり言って成行きで注文しただけで、大抵期待ハズレの器ばかりがデカい盛りが出てくるだけである。
と思いきやこの店の刺身は本当に素晴らしかった。 五種盛だったがどれも皆、たった今魚体を三枚おろしにしてサク取り、刺身を引いたのではなかろうかという真新しさ。 マグロに頼るでもなく、魚自体の品質にこだわっている。 水産県長崎で、魚まみれで生活している人間としても、何をつまんでも旨い刺し盛りなんて初めての経験だった。

酒
日本酒に詳しい男が一緒だったので、彼の采配により黙々飲み進んだ。 「而今が豊富なお店」と聞いていたところ、その他の銘柄も味に偏りがなく揃えられており、次の一杯が楽しみでならなかった。 特に秋鹿の山に関しては、個人的日本酒にのめり込むキッカケとなった酒だからことのほか胃に沁みた・・・酒器がまた素晴らしい。
〆
閉店前に、店主の古賀哲郎さんとお話しさせていただいた。 最後に握手を交わしたところ、そのゴツい手は、これからもきっと何かアッという物を生み出すエネルギーに満ちあふれていた。