職人~出禁の流儀
職人:「ホラ、あの店行った事ある? あの地下降りてって右の、狭い・・・」
オイ:「二三回ありますかね」
職人:「あの店酒の揃えも良くていつも混んでてネ、良い店なんだけどネ、出禁なのよ俺(笑顔)」
オイ:「なな何があったのです?」
職人:「俺ね、仕事終わってから軽く店に入って自分の一番好きな酒をチビチビ飲むのが好きなのよ。 そこであの店とは付き合い長かったからさ、秘蔵の一升瓶を一本俺専用として置いといたのよ」
オイ:「ほう」
職人:「んで一杯だけそれ呑んで帰ったらさ、次行った時にはもう、半分も残ってねえのよ酒が。 で『どうしたんだ(立腹)』と聞いたらさ、お客さんが呑ましてくれって言うからつい、ちゅうもんだから俺アッタマ来てさ、もー他に客いるのに怒鳴っちゃってさ、それ以来出禁なっちゃったのよ(笑顔)」
オイ:「なるほどですね・・・」
職人:「ウチの店からもさー、結構若いヤツ巣立っていったけどホラ、今ミシュラン乗って調子コイてるあの店あるでしょ、行った事ある?」
オイ:「一度行きましたけどうーん・・・」
職人:「アレもウチで修業してたのよ。 今人気店になっちゃったけど、酒の仕入れルートから何から、全部俺が仕込んだんだから。 ほら、あの酒屋知ってるかな。 あそこが一番力のある酒屋でさあ、ウチもそこからも酒入れてたんだけどケンカしちゃってさあ、出禁になったのよ(笑顔)。 でもウチから店出した人間には酒ちゃっかり売ってあげてんのよなー、腹立つ」
オイ:「・・・」
職人:「最近酒も弱くなってさー、休みにたらふく呑んで、酔っぱらって歩いてたらさ、店の看板蹴っちゃって。 中から店員出てきて押し問答になって大変だったんだけど、まあ俺も店やってると話したら和解してね。 次の週お詫びに飲み行ったらさ『出禁です』っつーんだよ、ばかやろうふざけんなってな(笑顔)」
オイ:「(出禁になってみようかなあ俺も)」