外へ!
家に着き、玄関を開けると、靴が山になっていた。
1歳の次女は今、玄関にハマっている(その前は食器棚だった)。 兄や姉がやるように、腰かけて、靴を履いてみようとする。 でも、なかなか足を入れることができない。
それならばと、並んでいる他の靴を試してみる。 やっぱりダメで、次、そのまた次へと試していった結果、よちよち歩いて今度は下駄箱の中の靴を物色しはじめるのだ。
下駄箱の中から次男の長靴を見つけた。 次女は目を輝かせながらゆっくりと長靴を足元に並べ、そーっと足を上げ、長靴の中に入れようとする。 長靴は履きやすいアイテムのひとつなのだが、今日はなかなか上手に履くことができない。 倒れたり、向きが違っていたりして苦戦する次女。
しばらくして、ようやく履くことができた。 ご満悦の様子。 それでは行ってきます、と言わんばかりにドアに向かって歩き始めるが、なにせ兄の長靴を履いているものだから足を上げた瞬間にスポリと抜けて、つんのめりそうになる。
そこをなんとかこらえて、またゆっくりと履きなおし、ようやくドアにたどり着く。 「ドア、っちゅうもんは、引き手を握ってどうにかすると、開くもんだ」ということは理解している。 だがそれを引くのか押すのか回すのか、それがわからない様子。
その後すぐさまカギに手を伸ばした時はまいったね。
子供ってよく見てるもんだ。 ただ、ドアを開けようとしても開かない時は、カギをどうにかすればよい、ということは知ってるが、それを右に回すのか左に回すのか、それとも取っ払ってしまうのかがわからない様子。
カギを触ってみてもドアを開けることができないことがわかった次女は、ゆっくりと振り返り、オイに「開かんし・・・」と目で訴えかけてきた。
すぐさま飛んでいって、ロックを解除し、ドアを開けて「行ってらっしゃーい!」と送り出してあげたかった。 でも、この先どんな対応をとるのかを観察してみたい気持ちがあるのも事実。
せっかく見てやったのに、何もしてくれなかったオヤジに愛想を尽かしたかのように次女は向き直り、また、カギを見つめた。 ドアが開かない原因は・・・カギはカギにある、と判断しているのだ。
次の瞬間、彼女はドアを平手でバンバン叩き始めた。 その姿はまるで、深夜閉店した店のシャッターをバンバン叩いて「入れろ」と言っている酔っ払いオヤジのようでもあり、いち早くバーゲン品を手に入れたいがために、開店前だというのに中に入れろと強要しているおばさんのようでもあった。 人間って、開かないとなると、とりあえず叩いてみるもんなのだ、たぶん。
叩いてもダメだとわかった彼女は、突如カギのつまみに噛み付いた。 この技は次女が切羽詰ったときに繰り出す奥義であり、被害者は数知れない・・・。
ドアに噛み付いた人物を見たのは初めてであり、その姿の滑稽さに思わず吹きだしてしまいそうになったが、彼女は真剣そのものである。
これほどまでの熱意を見せられては手を貸さないわけにはいかない。 カギを開け、ドアを押し開いてあげた。 「娘よ、さあ外へ!」
喜んで外へテクテク歩いていくのかと思いきや・・・しばらく棒立ちで外を眺め・・・きびすを返しそそくさと長靴を脱ぎ捨て、部屋の中へよつばいで去っていった。 まだよちよち歩きをはじめたばかりなので、早く移動したい時は、はうのだ。
去っていった原因はいくつか考えられるが・・・残されたオイは、靴の後片付けをはじめた。