銀座日記
午後になって、少し足を鍛えようとおもい、地下鉄の駅まで歩く。 往復40分。 息が切れて、足が宙に浮いているようで、危なくて仕方がない。
いろいろな人から入院をすすめられているが、いまは入院ができない。 また、入院したところで結果はわかっている。
夜は家人が所用で出かけたので、鳥のそぼろ飯を弁当にしておいてもらい、食べる。 やはり、半分も食べられなかった。
中略
いま、いちばん食べたいものを考える。 考えても思い浮かばない。
『池波正太郎の銀座日記より』
池波さんの小説、エッセーには必ずといってよいほど「死」についての記述がある、と解説をかいた重金敦之氏は言う。
人間は、生まれた瞬間から、死へ向かって歩みはじめる。 死ぬために、生きはじめる。 そして、生きるために食べなくてはならない。 何という矛盾だろう。『日曜日の万年筆』
近年、つくづくと、一人の人間が持っている生涯の時間というものは、(高が知れている・・・・・・)と思わざるを得ない。
人間の欲望は際限もないもので、あれもこれもと欲張ったところで、どうにもならぬことは知れている。 (略)
三日に一度ほどは、ぼんやりと自分が死ぬ日のことを考えてみるのは、徒労でもあろうが、一方では、自分の中の過剰な欲望を、打ち消してくれる効果もあるのだ。 『男のリズム』
死ぬために食うのだから、念を入れなくてはならないのである。 なるべく、(うまく死にたい・・・・・・)からこそ、日々、口に入れるものへ念をかけるのである。 『男のリズム』
銀座には3千軒近いバー、クラブがあるそうだ。 その中のひとつに池波さんが名前をつけて、池波さんの筆による看板をかかげた店があるという。 今の時代、銀座に行かずともググればすぐにその店は判明するが、是非、池波さんが愛した店に行きたい。