ワナがあります:シシとの遭遇
ワナがあります
早朝(と言っても最近はだいぶ遅くなったが)日課のランニングをしていると、見慣れた山道の木の枝に何やら札が下がっているのに5メートル手前から気がついた。
グイと近づけばちょうど七夕の短冊大の紙に「ワナがあります」と記されている。
たぶんイノシシでも捕獲するのだろう、それを尻目にまたペースを上げて走り始めた。
一週間ほど経った頃、またそこの前に差し掛かった。
突如奥からガサゴソ音がするので「もしやイノシシが罠に」と思えば老人男性と中年女性が顔を出した。
「なんだ人間か」
山菜採りでもしていたのだろうか。 また走り出そうとすると、老人が「兄ちゃん、ちょっとこのロープを引いてくれ」と言いながらその先をこちらに投げてきた。
キッパリ断ろうかとも一瞬考えたが、何か困り事かもしれぬと思い、かがんでロープを右手に取って何となく引いてみた。
ロープはピンと張ったまま何も起こらない。 瞬間老人が「もっと強く引かんとダメよ」と言うのでちょっと力めば「片手じゃ無理」という言葉が飛んできたのでそれならと、
その場足踏みを止めて両手でロープをつかんで力一杯引いてみた。
すると…
「ドッタン」というニブい音と共にイノシシが姿を現した。 ロープの反対側は首にまかれており、どうやらすでに息絶えている様子である。
しかしカッと見開かれた目を見れば、ついさっきまで生きていた様子がうかがえる。
とっさに「あーびっくりした!」と声を上げたら今しがたワナにかかったイノシシを仕留めたのだがそれを引っ張り出す事ができずに四苦八苦していたのだという。
「助かった」と礼を言われた後しばしイノシシを観察し、また走りはじめる事にした。
この付近では年に数回、イノシシの姿を見かける事があるので特別珍しいとは思っていないのだが、ワナにかかったそれを見たのは今回が初めてだった。
農作物への被害が結構深刻だったりもするそうなのだが、親子連れなんかを見るとつい、陰ながら応援してやりたくなったりするものである。