花のある人
何度かここで書いた事のある近所のババが、彼方へ旅立って行った。
その報を聞く二週間くらい前だろうか、ちょうどババが夢に出てき又、姿形声色は本人とはかけ離れていたものの「遭いに来たよ」と笑顔で現れた本人に「おー久しぶり!」と握手で返した事があったっけ。
ババの小さな畑では、季節ごとに様々な野菜たちが手塩にかけて育てられており、それらを惜しみなく私たち家族に与えてくれた。 「う」の字に曲がったきゅうり。 外側を存分虫に食べられている白菜。 歯ざわりは粗すぎるが内部に甘味をたっぷり蓄えたネギ。
店で売られている野菜よりも荒々しい命の息吹を感じるそれぞれを頂戴しながら、この一家は今日まで生きてきたのだ。
やすらかな顔をしていた。
詳しい話はあえて聞かない事にしていたが、若い頃には相当な苦労があったらしい。 乳飲み子を背負い海岸まで降りて、何度もそのまま沈んでしまおうと考えた事もあったとか。
今朝ババの家を通りがかったら、可愛がっていた花々の咲き誇っていた花壇を解体している最中だった。 手をかけてくれる人がいなくなった今、花たちにとってもそのほうが良いだろう。
手入れの行き届いていた裏の畑は雑草が茂り、まさかついこないだまでここが畑だったとは誰にも想像がつかないほど荒れていた。
前を通りがかっても「ババの畑」としか認識していなかったが、日頃いかにババが草を抜き、土を耕し、野菜を皆に分け、また新たな種を植え、手入れを一日たりとも欠かさなかったのかが今ようやく理解できた。
もう真夏の暑さに参る必要もないし、腰が痛くて起きれない事もない。
ババ、焼酎でも飲んでのんびりしてなよ。