第一日目
子供たちの夏休みが始まった。
今日が第一日目である。 例年同じ事を子供らに話しているとは思うのだが、言わずにはおれないのでまた今年も語る。
我が半生で、一番楽しかった時期は小学校低学年の頃なのかもしれない。
今とは違い、夏休みがはじまる頃にはすっかり梅雨も明けてセミがジャンジャカ鳴いているが普通だった。
誰に教わるでもなく夏休みの第一日目は早起きをして、歩いて3分のところにある公園へ出かけてセミ採りをするのがルーティンだった。
どうしてそうする事にしたのかは本人にもわからない。 だがそうしないと夏休みが始まったという気分になれないのだ。
日中は多くの子供や老人、ヤンキーがたむろしている公園も、朝六時となるとだれも居ない。
ただセミの聲が鳴り響いているだけである。
ひとり静かに木を見上げ、探す必要すらないほど鈴生りになったセミを一心不乱に採っては虫カゴに入れる。 カゴはすぐに一杯になる。
汗をぬぐいながら家に帰り、朝ごはんを食べながら気が済むまでセミを観察したら、今度は全てを空に放つ。
オシッコを飛ばすもの、交尾中で尾がくっついているもの、飛べずに落ちてくるもの、巨躯と似合わずキレの良い飛び方をしながらあっという間に皆いなくなる。
宿題をカバンに詰めこんだら親を起こす。
そして「はやく田舎へ連れて行け」と催促するのだ。
夏休みは初めから終わりまで田舎で過ごすものだった。
温かく迎えてくれる爺ちゃんと婆ちゃん、そして我が人生の師である叔父。 喧嘩ばかりしてる従兄弟。 これから長い、だけどアッという間に過ぎてしまう夏を一緒に過ごすのだ。
宿題を持ってはいくものの、ほとんど手をつけない。 机に向かってモジモジするよりも、やらなければいけない大切なことがごまんとあるのだから。
今思い返しても、うっとりするほど美しい夕焼け。 気絶しそうに壮大な星空。 美味しすぎる朝の空気。 その全てが今の私を生んでくれた。