ピタリ
よく晴れた日、のんびり車を運転していた。
走りなれたトンネルに入った瞬間、後ろに黒いバンがピタリと付いている事に気がついた。 車間をどんどん詰めてくる。
いわゆる煽り運転だ。
この辺の田舎にはこういう輩が多い。 たとえば車でなく、道端でこの連中と肩をうっかりぶつけようものならすれ違いざまに「銅座で会ったら注意しとけよオマエ」というような、意味不明の捨て台詞を吐いてくるような人種である。
ちなみに補足しておくと、銅座とは長崎市の繁華街である。
さて、煽られようとこちらはマイペース。 トンネルを抜けても執拗に煽ってくる。 ミラーで確認したところ乗員は二名、どちらも年齢不詳の男である。
信号停車をした。
するとうしろの連中がザワザワ動いているのが視界に入ったので確認すれば、フロントガラスにスマホをピッタリとつけて、こちらに向かって撮影している様子である。 いよいよ無関心に徹した方がよさそうだ。
信号が青に変わると同時にこちらはすぐ左折したが、彼らはそのまま直進した。 その去り際にサイドガラスを開けた連中はしきりにこちらに向かって何かを剣幕しながら中指立てつつ叫びながら去って行った。 もっともこちらは密閉された車内だったので何を発したのかはまったく聞こえはしなかったのだが。
そのイキがり方の様子から、経験上彼らは少年時代につらい思いをした反動が、この年になって出てきているのだろうなと察した。 気の毒に。
帰宅後しばらくして、警察が二人訪ねてきた。 要件を聞けば「こういう車をお持ちです?」と言うのでまさにそれは私が乗っているものだと答えた。
すると警察は、なんでも危険運転をしている車があると通報されて、ナンバーを教えられたので解析すると、こちらの住所が出てきたのだという。
すぐにピンと来て、煽り運転に遭遇した顛末を話した。
「かえって被害者だったのですね恐縮です」と警察。
そこで彼らの特徴を覚えている限り事細やかに伝え、むしろああいう人間を野放しにしている事こそ、未来の重大事故につながるからマークするようお願いした。
ところが警察は快諾するのかと思いきや、できればイザコザは避けたいのだろう、あまり乗る気の返事ではなかったのが残念だった。
まあ最低限自分の身は自ら守らねばならない。 15年前くらいだったら「降りて来い!」と私も血が上っていたのかもしれないが、今となっては「やれやれ」である。 たとえば、第三者にも危害が及ぶとなれば別ではあるが。
たぶんツイッター界隈を精査すると、すぐに個人特定できそうなレベルの人種だと思われるので、こういう被害に会われた方は、警察に通報すると同時に、SNSを調べてみても良いかもしれない。 かなり高い確率で、個人情報を全世界にむけてさらけ出しているハズだから。