ケンタ待つ
午後八時。 バスで帰宅してくる娘をバス停で一人待っている。
メールによると、あと3分程で到着するはず。 それにしても、日中はポカポカしててもこの時刻になると肌寒い。 あいにく風呂上りにTシャツ一枚下駄履いて歩いてきたのをやや後悔している。
所定の時間になってもバスは来ない。 混んでいるのだろうか道は。 「いまどのへん?」と連絡してみようかとも思ったが、そういうチマチマしたやり取りは娘の性分には合わないのでただ待っている事にした。
街灯に照らされ桜が淡い光を放っている。 夜風が吹く度、花びらがチラチラこちらに舞ってくる。 とっさに手で受けようと試みるもそのヒラヒラは、避けるようにして地面へ落ちてゆく。
スマホで何枚か撮ってみたが、あまり良い写真にならないのは、娘の事が気になっているからだ。
バスが来た。
乗客はたった三人。 そのうち一人が娘である。 軽く手を上げ合図をしたら、気付かなかったのだろう、そのままスマホに目を落としたままだった。
え、気付かなかったんだよね?