トゥーッス!
ご飯を食べている次男の顔色がすぐれない。 どうしたのかと聞けば、「グラグラして抜けそうな歯がある」との事だった。
小学四年とはいえ、すっかり大きくなった息子にまだ生え変わる歯が残っている事にいささか驚いた、というか、中学生までには全て生え変わるのだったかしら、「おーい娘、まだ乳歯って残ってる?」 中一の娘は奥歯があと二本、生え変わりを待つのみだという。
腕組みして自分の歯に関して記憶を掘り起こしてみれば、歯が抜けたのは小学一二年の頃の時を思い出したがそれ以降はいつ抜けて永久歯が生えてきたのやらハッキリしない。 遊ぶのに忙しくそれどころではなかったからなのかもしれない。
「ほっとけばそのうち勝手に抜けるから早くご飯食べなさい」と家内に急かされている息子。 しかし本人は舌でそのあたりをコロコロさぐり、決まり悪い様子。 それを見た長男が、
そういやこないだテレビかYoutubeで見たんだけど、男の子の歯が抜けそうで、それに糸をくくりつけて抜こうと親がしているんだけど、それが怖いとその子は泣いていて、その横には3歳ぐらいの弟がいて。
何を思ったのか弟は泣きじゃくる兄ちゃんの口から垂れているヒモをとっさに「グンッ!」と引っ張って、その途端に歯は無事抜けたんだけど、当の本人は今何が起きたのかを理解できずにいて、それを親から教えられたとたん、
なんだ抜けたのか、と一転大喜びしているかたわらに何のこっちゃワケワカラン弟が立ちつくしている。
という光景を見たんだよね。 だから紐でその歯をくくっておいて、知らないうちに誰かが引っ張れば楽に抜けるのでは? と提案した。
それを聞いた次男は青ざめて、箸を完全に止めてしまった。 その後も彼は、大好きな風呂上りのハーゲンダッツすら口にせず、さびしそうにその日を終えたのだった。
あくる日の朝、「抜けた―!」という次男歓喜の声が響いた。 なんでもおにぎりを食べている時すんなり抜けてきたらしい。 少し誇らしげに、奥歯を高々と朝日に掲げている次男の雄姿が庭にあった。