落ちてきたもの
デッキブラシを振り回しながら猿を追いかけている夢をみた。
ホームセンターへ買い物に行ったら、おばちゃんが猿に襲われていたので、立てかけてあったデッキブラシを手に取り救出する、という設定だった。
「なんでまた猿の夢なんかを・・・」コーヒーをすすりつつボーッとしていたら、ニュースで「猿が出た」とやっていた。 噛まれた人もいるそうである。 なるほど、「猿の夢」の原因はたぶんこのニュース。 知らずのうち耳にしていたのだろうきっと。
さて、そんな猿話で思い出したノンフィクションネタをひとつ。
ちょうど去年の今頃、残り少ない夏休みを満喫させてやろうと、長男と二人で夜間カブトムシ採集に出かけた。 夜間といっても8時過ぎぐらい。 車で10分ほど走ったところにある道路脇の雑木林だ。 「ここよさそう」と昼間通ったときに目をつけていたのだ。 クヌギが乱立し、やや急な斜面になっている。
一番大きなクヌギを照らすと、カブトムシが樹液をなめていた。 即ゲット、幸先がよい。 急いで虫かごに収める。 次は隣のクヌギをキックしてみようか。 この「木キック」こそ「カブトムシ採り」の醍醐味だ。 蹴り飛ばすと、「パサパサ」と何かが木の葉の上に落ちた音がして、そのあたりを探すと、カブトムシやクワガタが落ちている。 「やったね!」という寸法。
「いくぞー・・・キーック!」「ドカ!」
瞬間、予想外にも「ドサァ!ボキボキ・・・」という「かなり重たいもの」が落ちてきた音がした。 斜面を転がり落ちている様子。 「ギクリ」と二人顔を見合わせたが、「なーに腐りかけた木の枝でも落ちてきたのさ」と息子に説明しようとしたところ、「バキバキバキッ」という木の枝をふみ折る音が近づいてきて、落ちたものがこちらに駆け上がってきている気配がした。
一人ならば一目散に逃げたであろう。 でも、息子を守らなければならないしそうはいかない。 近づいてくるものに向かってマグライトLEDを照射しつつ柄でブン殴れるように構え、二人「せーの」で「ワァァァーー!!!」と叫んだ。
すると「落ちてきたもの」は向きを変え、横へ、ライトの光で追えないほどの猛スピードで走り出した。 暗くて見えないが、再び木にのぼり、枝伝いに移動していったような気がした。 「ガザガザガザッ」という音が遠ざかっていく。
ホッとする間なんてない。 急いで車へ戻り、スッ飛ばして帰った。 二人ともしばらくは無言だったが「さっきの何だったんだろうか・・・」というオイのつぶやきに息子が反応し、「トラかも」とか「妖怪だよ!こっちに向かってきていたよね!」と色んな推測で盛り上がった。
「正体は妖怪」だったら面白いが、オイ的には「猿」だと思っている。 でも動物園で見たことのある日本猿よりも、かなり重たそうな落下音がしたのでイノシシぐらいの大きさはある生物だと感じられたのだが・・・今となっては確認のしようがない。
たったいまこの話を思い出し、となりでせっせと算数の宿題にはげむ息子と話をした。 息子は事細やかに覚えていた。 「正体確かめにさ、今晩行ってみない?」とからかってみたら、息子は無言で首を横に振り、またひっ算に取り掛かりだした。