イクラ娘

ウチの息子はイクラが好きだというなんとも迷惑な話は以前書いたが、最近になって判明した衝撃の事実がある。 なんと、下の一歳半になる娘もイクラ大好きだったのである。
普段だっこしようと「おいで。」なんて声をかけても「イヤ」なんて近寄ってもこないくせに、イクラを肴に飲んでいると目を見開いて近寄ってくるそのスピードはもはや一歳半のものではない。
ひとたびイクラを口に入れてやるとノンストップ。 ご飯にのせてやってもイクラだけ厳選して食べる。 無くなると怒り出す。 まあ、家の中ではオイが少しガマンすれば、存分にイクラを食べさせてあげることができる。 うれしいですよ親父的には。 自分と同じ物が好物だなんて。 将来一緒に飲めたりするのではないか? なんて期待もふくらむっちゅーものだ。 しかしこの発作がお出かけ先で始まると、親として、非常に困るわけである。
この日は、おじゃました先でお寿司をご馳走になることになった。 上寿司なのでウニやイクラも並ぶ。 まだラップがかけてあるにも関わらず、すでに興奮し始めている娘に気付いたオイは焦り、おもちゃで気をそらそうとするが、失敗。 ギャアギャア言い出したので、周囲の人も、「あらーお寿司が食べたいんだって。 もう食べさせてあげなさいよ。」なんておっしゃる。
お言葉に甘えて、娘だけ先に寿司を食べることになる。 イヤ、寿司というかイクラを食べることになる。 こっそりイクラが並んでいる面を、娘から一番遠くなるように寿司桶を回しておく。 娘は、今や立ち上がらんばかりの勢いである。
「おーよしよし、よーしよしよし、寿司、どれ食べる?(どうせイクラだよな)」なんて体面上一応娘に好みを尋ねているフリをする。 マグロを指差してみる「イヤッ。」 イカ、ハマチ、サーモン、エビ、鯛、アナゴ、ウニと指差してみるが、もちろん娘はそんなの眼中に無い。 そう、ねらいはイクラの軍艦巻き、それのみである。
「あーカワイイね、イクラが好きなのー。 はい。」 なんて隣の人が娘にとってあげる。 「ガブムシャムシャワシワシ。」と、しばらくおとなしくなる。 そして恐れていた事態の幕開けである。 そもそもわかっていた話だ。 オイの娘がイクラの軍艦巻きを一個食ったぐらいで満足するわけがない。 わけがない。
あっという間にイクラの軍艦巻きを、7カン全て、食い尽くしたのである。 娘に1カン渡す度に、「いやぁーどうもスミマセン。 娘、イクラ病なんです。」と、注釈入れながらあやまりっぱなし。 父さんちょっと恥ずかしいぞ娘よ。