ガスコンロ復活祭
ある日突然火がつかなくなった。
以前から予兆はあったものの、相当不便である。
ウチのガスコンロには3つの噴出し口(バーナー)があり、それぞれ火力は大中小と振り分けられている。 今回点火しなくなったのは、カンジンカナメの大バーナーである。
大中小それぞれを使う割合は7:1:2である。 「大」がなければ話にならないということ。 強火で一気に炒めあげる、という技が使えないということである。
そもそもどうして大中小なのか。 そのような振り分けは不要である。 全部大でいってもらいたい。 何のために火力調節のつまみがあるのだろうか。 さじ加減は人間にまかせろ。
一番腹が立つのは向かって左の中コンロである。 バーナーの中央から安全装置である突起が出ており、これが非常に邪魔なのだ。 突起のせいで、中華鍋や丸底鍋なんて使えやしない。 鍋をゆすろうと思えば突起が持ち上がり、勝手に消えてしまう。 焼き網を乗せてシメサバの表面を炙る、なんていう事は不可能。 まったく腹が立つ。
何年か前、ほとんど使う機会がないにも関わらず、中バーナーがイカれた。 そのまま放っておこうとも考えたが、ちゃんぽんを作る際等バーナーを総動員しなければならない場面もあるので不便だ。 修理してもらうことにした。
まてよ、せっかくだから、中バーナーを大バーナーに付け替えてもらおう! すると大が2基になり、忌々しい安全装置もなくなりで万々歳だ、という名案が浮かんだ。
でもガス屋さんにそう伝えると、それはどうしてもできないのだとか。 中が取り付けられていた場所には中を、大には大を、小には小を据えつけることに決められているらしい。 残念。
さて中バーナーの話はさておき、大バーナーがイカれた話。
ここ最近の大バーナーは、点火する際やけに時間をとるようになっていた。 普段が「チッチッチッチ・・・ボォー」ならば「チッチッチッチッチッチッ、チッチッチッチッチッチッチッチッチッッチッ・・・・・・・・・・・・ボッ」みたいな。
これまでの経験上、こういう時にはバーナーの先っぽを取り外し、金たわしで目のつまりなどを取り除くと復活していたのだが、今回は重症のようだ。 まったく点火しない。 修理に来てもらう。
結果、大バーナーは寿命をむかえており、バーナーごと新品に交換しなければならないという話だった。 でも修理費がけっこうかさむし、いっそのこと、ガスコンロ自体を買い換えてみるというのはどうか?と持ちかけられる。 アリかもしれない。
早速カタログを取り寄せてもらい、ザッと目を通す。 何故だかわからないが、このカタログに載っているコンロはどれもこれも、3つのバーナー全てに安全装置が取り付けられている。 こんなもん、採用できるわけなかろうもん。 安全装置のないコンロのカタログを請求する。
が、しかし、ここで、驚愕の事実が明らかになったのだ。
なんと、現在市販されているガスコンロには、全てのバーナーに、安全装置がついているのだという。 しかもそれは義務なのだ。
まさかの展開にオイはしばらくボー然とし、モニターに向かい検索を繰り返し、情報収集をはじめた。 本当だ・・・・・・。
進化するガスコンロ 来月製造分から全台導入
すべてのガスコンロが4月から安全に生まれ変わる。 うっかり火を消し忘れてしまったとき、安全装置が働いて自動的にガスが遮断されるなど安全機能が充実。 いわば「頭のいい安全コンロ」で、ほとんどの家庭に普及する10年後には、コンロが原因となった火災が激減すると期待されている。
家庭用コンロのすべてのバーナー(火口)に安全センサーを搭載し、消し忘れなどの際に火を止める機能を備えている。
4月以降に製造される家庭用ガスコンロには、都市ガス、LPガスなどのタイプを問わず、これらの安全機能が全国で標準装備され、安全センサー搭載のロゴマークが付く。
10月に国が導入する予定の新安全基準では「調理油過熱防止装置」「立ち消え安全装置」の装備が義務付けられることになっており、ガス事業者やガス機器メーカーなどガス業界が主体となって、基準を先取り・拡大する形で安全機能の業界標準化を行った。経産省では「安全機能によりガスコンロによる火災は激減する」とみている。
17年8月以降に製造された2口または3口のガスコンロには、必ず1口のバーナーに「調理油過熱防止装置」が装備されている。 ところが日本ガス協会によると、ガスコンロからの失火の多くは、こうした安全機能がついていないバーナーを使用していた。 つまり、安全機能のついていないバーナーで天ぷらを揚げて、油が過熱し、「天ぷら火災」に至るようなケースだ。
国内で使用されているガスコンロは約4500万台。 同協会は、10年後にはガスコンロのほとんどがセンサーコンロにかわるとみており、「キッチンからの火災は大幅に減る」と大いに期待している。
以上ENAK 進化するガスコンロ 来月製造分から全台導入(2008/3/6)より抜粋引用
ふーむ、もうひとつ。
2008年10月から全口安全センサー付きガスコンロ以外は製造と販売が禁止されます!!
全口安全センサー付きガスコンロの製造販売が来年10月から法制化され、従来の1口にセンサー付がついたガスコンロやセンサーのないガスコンロは、すべて製造販売が禁止となる予定です! もちろん、家庭用の輸入ガスコンロやガスレンジなどは、現状のままでは設計に取り入れることもできなくなります。
住宅火災の主原因をなくすために、安全なガスコンロをメーカーが提供することには全く異論はないが、本当に「全口に安全センサー」は必要なのだろうか?そして全口にセンサーがつけば、本当に火災事故を防げるのだろうか?
ユーザーの使い方に問題があると思われる、調理中に火元から離れたり、天ぷらを揚げながら電話に夢中になるということを、ガス機器側がすべて安全装置で解決することは、2~3万円というコスト高につながることを含めて、本当にユーザーの求めていることなんだろうか?そして肝心なことはこの安全センサーの信頼度はそんなに高いものなんだろうか?
ここ数年、キッチン熱源をガスにするのか電気にするかが話題となっているが、ガスのメリットはなんといっても裸火で様々な調理ができ、子供たちに裸火の怖さと楽しさを教える道具であることだ。 有史以来人類は裸火を使いこなすことで文明を築いてきたのである。
今回の規制が当然のことながら業務用コンロにはないところにも大きな問題があることは明白である。
もっと大きな問題は、今までキッチンデザインの先進化に役立ってきた「安全センサーの付いていない輸入ガス機器」の販売が2008年10月以降全面的に禁止されてしまうことにある。 戦後進駐軍の住宅で使われてきたアメリカ製のガスレンジが、今のガス機器メーカーの基本となっていることを、もう一度あらためて見直してみる必要はないだろうか。
魅力的なガスレンジの数々が世界各地から輸入されてきたが、すべてこれらのメーカーのガスコンロやガスレンジは展示も販売も使用も禁止されることになる訳だ。 海外メーカーの基本スタンスは、日本のそのような規制に対応することはなく、非関税障壁のひとつとしてとらえることになるだろう。 まさしく「ガスコンロの鎖国時代」が到来することになる。
日本独自のこのような規制が、これからの世界の中で本当に通用するのだろうか?政府やガス機器メーカーは、安全のためと大上段に振りかぶっているけれど、こんな規制を強めて、ガス機器のデザインや機能が縛られてしまうなら、いっそのことIHクッキングヒーターのほうが安全性が高いし、デザイン的にもスマートに納まることから、今以上にガス機器市場のマーケットを自ら縮めててしまうことに気づかないのだろうか?
日本国内で今まで製造販売され、使われてきた大量のガスコンロはどう扱うのだろうか?
ゆくゆくは業務用の巨大ガスバーナーを我が家のキッチンに据える、というオイの夢は敗れた。
話としてはよくわかるし、必要な機能だとは思うがこれでは中華鍋を使ったり、直火で炙るという調理方法ができないではないか! 中華鍋など底が丸い鍋については専用の五徳が売られているが、ガスコンロの形状とあわなかったりもする。 安全装置付きガスコンロには、安全センサーを解除できる機能もあるそうだが、そうであれば3口すべてを安全装置付きにする意味が薄れるのではないかと思う。
これまでオイがどうしてIHではなくガスに固執し続けてきたかというと、火が好きだからである。 電気では生み出せない味があるのだ!
半ばあきれつつガスコンロの買い替えはやめることにした。 「もしかすると、大バーナーを新しいものに交換すると、それは安全装置付きの大バーナーに替えられるわけですか?」とガス屋さんに質問すると、それは違うのだとか。
安全装置の付いていなかったバーナーを、安全装置付きのバーナーに付け替えることはできないのだとか。 なんだか変な話だが、こっちとしては助かった。 従来どおりの安全装置なしの大バーナーを使うことができるのだ。
交換が済んだ我が家の大バーナーはゴォーゴォーいいながら毎日活躍している。 現在のガスコンロを使い続ける限り、全口安全装置付きのガスコンロを使う必要はないのだ。 何度でもバーナーを交換して、延々と大事に使い続けてやると固く心に誓った。
安全機能によりガスコンロによる火災は激減するかもしれないが、料理の楽しみも激減するであろうと思う。