カメレオン
そういえば運転免許証の更新に行かねばならなかった。
この面倒な作業、なんとかなりませんかねという話をし続けて早十数年。 だいぶ前に書いた記事から何の進化もない手続きにいささか辟易してしまう。
もちろん私は優良運転者であるから5年おきの更新である。
先日更新した知人はそうでなかったから3時間弱1日の大切な時間を拘束されたと嘆いていたのを考えると、30分の講習だったらまだマシなほうだと考えるべきなのか。
実はマイ免許証には秘密がある。 とつい書いてしまったが正しくは、私の免許証は秘密である。
なぜならば写真が奇妙すぎて公にはさらすことができないレベル、だからである。
抱腹絶倒赤面恐縮の一枚が生まれてしまったのにはワケがある。
五年前の更新時も期限間際で慌てて署に向かった私は、うっかり写真を持たずに走ってしまった。 自宅に忘れたのではなく、撮る事自体を忘れていたのだ。
そこであえなく署内の撮影所のお世話になった。
お粗末なカメラに照明も無し。 お世辞にも良い写真が撮れるような環境ではなかったが、別にプロフィールに使うわけでもなしまあ良いか、と軽く考えていたくらいだ。
ところが出来上がった一枚を見て、思わず絶句してしまったのだった。
私は愚か者だ。
なぜこんな日に、こんな色のシャツを着てしまったのだろう。 シャツは背景のスカイブルーと完璧に同化して、顔だけが生首みたいに浮かんでいる写真……クラスの集合写真撮影時に休んでおり、右上にポツンと肖像が浮かんでいるかのような独特な違和感。
撮影してくれたおじさんが写真を渡してくれる際、笑いをこらえているように見えたのは気のせいなのだろうか。
私がこの五年間、免許証を提示しなければならない場面を極力避けてきたのには、このような理由があったのだ。
時は来た。
まず明日朝一にキチンとした写真を撮りにいく。 この先五年を占う大切な局面である。 背景色に負けない色は何だろうか? いや勝負するのではなく、調和のとれた色を考えた方が無難か。
考えはじめると不安が焼く前のパンみたいにじわじわ膨らんでくる。 かつてこれほどまでに自分の写真を撮ってもらう事に対して悩んだ事があっただろうか。
結局いまだ答えは出ずドツボりそうな予感を抱きながら筆を置く。