甘鹹い記憶
「人生には以前出会った人が、今度は別のタイミングで現れたりするものである」
呑んだ帰りに台湾ラーメン屋に入ったら、そこの店主がこう熱弁していた。 だから彼は、どんなにイヤな人とでもケンカ別れしたりせず、事を穏便に済ませるようにしているとかで。
この話の前半まではなかなか興味深かったのだが、次第に何か意外な解釈へと進んで行って。
「もしも俺が意地悪した人がお医者さんだったとするでしょう。 で俺が具合悪くなった時病院行ったら、その人が担当だったとしたらもう、目も当てられないワケでヨ」
たしかに理屈はわからんでもない(笑)。
友人のお母様と久しぶり会った。 昔遊びに行けば、角煮を食べさせてくれたり、お好み焼きを焼いてくれたりと非常に世話になった人であったが、認知症になってしまったそうで。
記憶より年は重ねたものの、しぐさや表情はまったく昔のままだった。 ただ、私の事を誰だかまったくわかっていない事は、しばらく会話をしていたら分かってきた。
今「私の事を」と書いたが、ほとんどの人を誰なのかを識別していないらしい。 それは家族にも及んでいるという。
ただ、会話の端々に当時の事が、彼女しか語りえない事実で挟まれているのを見ると、覚えている事柄があるのも確か。 それがまた懐かしいのと同時に、ひどく哀愁を覚える状況で。 気がつけば何時間も背中を丸めて二人で会話をしていた。