入船寿司
「あなた、せっかく東京来たんなら、入船寿司にでも寄って帰りなさいよっ!」
お店は世田谷の奥沢駅からすぐだから。 あそこの大将、ちょっと言い方悪いけど、マグロバカなのよ。
もう何十年もマグロ一筋でお店やっててね、私たちは二十年以上前から通い続けているんだけどね、もうマグロのレベルからして並の寿司屋じゃかなわないのよ。
一番良いマグロはマズ入船さんに行って、その残りをその他が仕入れる、ていう感じになってるの。 とにかく一度、お店に行ってみなさいよ。
大将もずいぶん腰が曲がっちゃったけどまだ全然元気よ。 なにせ、365日休み無しなんだから。 もう何十年もそうやって営業しているの。 十何年前に一度何かで休んだキリ、いっちども休んでないの! ア!何年か前に店のトイレの改装するってしばらく休みになった事があったかしら。
イチオシは店主のオマカセ一万一千円マグロづくし!! もし同じレベルの、まあ同じレベルのは無いとして同じようなマグロを銀座で食べてごらんなさい・・・三倍はお金むしり取られるハズだから!!
大将はね、マグロが生きがいなの。 「俺が逝ったらお店もたたんでしまって、ケーキ屋にしてくれたってイーんだ。 マグロは俺一代だ」こうも言ってたわね昔。
とにかくあなた、私がこれだけ言ってるんだから、奥沢の入船寿司に、行ってきなさいったら!
と、口角泡飛ばしながら熱弁されたのは、長崎に戻る新幹線の車内での事だった。