瞳をとじて?
宮崎地鶏専門店で飲むという。 よほどの事が無い限りハズれないジャンルであり、なおかつ赤坂だということで、田舎者は大いに張り切った。 店の前に着き、白字に黒文字の質素な看板をしげしげ眺める。 どこか気品があり期待が高まる。
ドアを開くと、けたたましいBGMが鳴り響いていて思わずたじろいだ。 間髪入れずに店員がドスのきいた声で「いらっしゃませぇ!!」と一礼。 予想だにしなかった展開。
BGMはよく耳をすますと「平井堅の瞳をとじて」である。 だが大音量のため音が割れている。 いやまてよ、歌っているのはどうやら平井氏ではない様子・・・こりゃ素人の歌声だ。
もしや店のとなりにカラオケボックスでもあり、音漏れしているのかとも考えたが・・・やっぱり店内のBOSEから聞こえてくる。
冷や汗を垂れ流しながら席に着き、この店を選んだ案内人に一体どういうつもりなんだと詰め寄った。
飲み放題プランだという・・・・・・。
料理は店が決めるが、飲み物は二時間以内ならば何を呑んでも構わないそうだ。 学生時分によく通った類の店である。 仕方がないのでとりあえずビールを注文してハイ乾杯。 よく冷えたエビスで旨い。 もう一杯おかわりしたところで芋焼酎でも飲みながら、地鶏料理を楽しもうと思っていたのだが、メニューを見てみると、小さい文字で「ビールの注文はお一人様一杯まで」との注意書きがある。
これを見てキレたのが同席しているビール党の男で、「飲み放題でビール一人一杯までなんて妙なルール聞いたこたねえぞ!!」と小鼻を吊り上げ皺寄せながら火を噴いた。 オイは焼酎に変えた。
黒霧島が運ばれてきた。 「クロキリの20度なんて珍しいでしょ?」と店主は自慢げだが、そんなもの長崎では珍しくもなんともない。 そもそも珍しかったって焼酎は25度だ。 とにかく25度の焼酎を持ってくるようお願いした。
料理は、はじめに何故かモツ鍋が出てきて「それ博多じゃね?」なんて声もあがったが、モツ鍋の性質上、マズくなりようがないのでまあ喰えた。 続いてチキン南蛮が運ばれてきたが、チンしすぎていて肉はジャーキーのように固く縮こまり、衣がズルリと抜け落ちておりもはや謎の料理と化していた。
その後この店の料理はあきらめ、飲みと会話に徹す事にしたので、あとは何が出てきたのかは知らないが、二度と訪れることのない店である。
結局BGMに関しては、飲み会が始まっても、けたたましく鳴り響いており会話どころではなく、音量を下げてもらったのだが、ヘタな素人の「瞳をとじて」ほど苦痛なものはなく、聞くまいとしても耳に入ってくるなじみのあるメロディーが辛かった。
つまり苦行の夜。