塩鯖 | レシピクエスト1
俺は塩鯖。 絶妙な塩加減にでっぷり乗った脂で飯三杯は軽いと言われ続けて数十年。
コンロのグリルなんかで焼くな。 俺に限らず魚は炭火、七輪で焼け。
今日俺はこんがり焼かれた。 いつものように白飯のおかずになると思っていた。 ところが野郎、なんちゅうことか、焼きたての俺をほぐしはじめやがったんだ。
野蛮極まりねえ野郎だ。 俺の腹身を楽しみにしながら少しずつむしっては喰うなんてことはしねえとんでもねえ男だ。
頭んキタねホント。 おもいっきり張っ倒してやりたかったねしかし。
グズグズになった俺を小鉢に移した野郎は、次に大根をおろしはじめやがった。 大根の事は嫌いじゃねえ。 俺だってたまにはちょいと塩辛い時もある。 そん時ゃ、奴が役立つ。 大根がいたから今の俺があるといっても言い過ぎじゃねえ。
でもよ、野郎は俺と大根を混ぜやがったんだぜ。 腹がたってしょうがねえや。 そのうえ俺は塩鯖だというのにポン酢なんか回しかけやがってさ、しまいにゃワケギまで散らす始末。
髪の毛逆立ったね。
ところが野郎、こんなみっともない姿んなった俺を、愛おしそうにつまんでは、呑んでやがんだ酒を。 その顔といったら、白飯の時にはない、仏様みたいな柔らかい顔だったんだ。
こんな喰われ方もあったんだ、ってそん時気づいたね俺。
完
