今 東光『毒舌 身の上相談』
ベスト10
相談者:「和尚がこれまで読んだ本の中からよかったものを10冊あげてみてください。」
今東光:「いい加減にしろよ、この馬鹿野郎! まずてめえが何冊か読んで、毎年のベスト10を選び、そのを積み重ねていった方が利口じゃないか。 そのベスト10の表を何年か経ってから見ると、自分が最初に決めたベスト10が割合幼稚だったなあということがわかるもんだ。そういう勉強の仕方をしろ、この薄馬鹿野郎! このオレに、八十歳のオレつかまえて、おめえの読んだ本のベストだって、畜生、いい加減にせい!」
いい顔
相談者:「人の心に考えていることが、そのまま顔の表情にでてきて、顔つきがよくなったり悪くなったりするのでしょうか?」
今東光:「それは当然だ。 新渡戸稲造先生がそのいい例だ。 知識と教養がふたつ相まって発達していけば、人間の容貌も変わる。 だから、オレらが政治家を見て、こいつは総理大臣のツラじあねえ、とか、指導者のツラじゃねえ、と言うのは、そいつにどこかが欠けているんだよ。 日本の過去の政治家じゃ、吉田茂なんかがいい顔してたな。 作家だと、谷崎潤一郎先生、佐藤春夫、芥川龍之介がよかったなあ。」
糸くず
ある日織田信長が、手を叩いて小姓を呼んだ。
小姓:「ご用でございますか?」
信長:「いや用はない。下がれ」
これを何度も繰り返した。
最後に森蘭丸が来た。 蘭丸は信長の前へ出ると、畳の上に落ちていた糸クズを拾い、「何の用でございますか?」と言った。 信長の用は、糸くずを拾わせるためのものだった。
そこで信長は小姓を全員呼び集めて諭した。 「みんなもこの蘭丸の注意深さを見習うように。 いかなることに対してもだ。 今は小さなゴミだったが、この次は大きなゴミかもしれない。 時には手に余るようなゴミも目につくようになるかもしれん。」
以上今 東光『毒舌 身の上相談』よりメモ